店が海苔を味わってもらうために仕掛けた、もう一つのさりげない工夫とは?
だが実は、この店が「海苔」に並々ならぬこだわりを持っているということは、この「パリパリ」な食感を体験する前からすでに気付いていた。
それは、席についた直後に向かったトイレである。
店内のトイレには「無香料(食前)」と「香料(食後)」の2種類のハンドソープが設置されてあり、手巻き寿司を口へ運ぶ際に鼻に近づく手から、ハンドソープの香りがしないようにとする工夫がなされていたのだ。
店名が「KAZUNORI」なのは、おそらく同店のオーナーがKazunori Nozawa氏だからなのだろうが、その名が店のコンセプトに繋がっているというのも、なんとなくセンスがいい。
日本のコンビニの手巻き寿司よりもひと回り小さいサイズで、値段は税抜き3本13ドル(約1,450円)。
正直かなり高いと思うところ、チップ込みの明瞭会計も手伝ってか、外国人客からは「お手頃価格」の意見が並ぶ。支払い方法も、海外では一般的なテーブルでの会計ではなく、日本のように帰り際にレジでするため、こちらも客の回転率を上げる一助になっているのだろう。
寿司以外に気になったドリンクについても少し紹介しておこう。
列待ち時、多くの客が飲んでいた真緑の飲み物は、ベタな“グリーン・ティ”だろうとタカをくくっていたのだが、いざ注文してよく見てみると、その緑は透明がかっておらず、これまたどこかで見た色味だと思い出すと、筆者の実家で健康オタクの母親が毎朝「おはよう」のあいさつよりも先に出してくる「青汁」のそれ。味も視覚に違わず“おふくろの味”だった。
「グリーン・ティ」は青汁だった
寿司屋で「
青汁味の緑茶」が口腔内に入ってきたことに、脳内が一瞬ざわついたが、考えると「野菜の取れない寿司屋で青汁も悪くないか」と相成り、個人的には「めちゃくちゃアリ」な結論に至る。味も“おいしい”青汁風味だったため、独特の渋みと苦味がネタの脂によく合った。
遠く離れた海外で、こうした“本物”に近い日本食が愛されていると、どことなくこそばゆく、やはり嬉しい。健康志向の高いニューヨーカーの間ではまだまだ支持者は多いものの、全体的な日本食ブームは飽和状態になりつつある。
アイデアやこだわりを武器に、今後もKAZUNORIが、文字通りの“一本”勝負で“海苔”に乗ってほしいと、筆者は満足して店を出たのであった。
【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。その傍ら日本語教育やセミナーを通じて、60か国3,500人以上の外国人駐在員や留学生と交流を持つ。ニューヨーク在住。