もはや資産フライトはできなくなる!新制度(CRS)開始の恐怖
「最近、CRS適用国の各銀行から日本在住の口座保有者宛てに居住国の確認資料としてマイナンバーなどの提出を要請するレターが送付されているようです。現在、日本の銀行は、口座とマイナンバーの紐付けを行なっていませんが、海外の銀行が先行してマイナンバー提供を求めるため、このレターを受け取って、慌てて税理士に相談に来る人が増えています」
ただ、『マネーロンダリング』などの著書のある作家の橘玲氏によると、一部の富裕層の間では’14年にCRSの骨子が公表された直後から、対策が講じられているようだ。
「数億円レベルの資産を租税回避目的で保有し、かつまとまった運用益がある富裕層に対しては、海外のプライベートバンクはすでに法人化による租税回避スキームを勧めているようです。EUとスイスでは今年からすでに非居住者の銀行口座情報の自動交換がはじまっていますが、巨額脱税などは今のところ発覚していない。CRSが導入されても同様でしょう。さらに言うと、台湾やタイ、カンボジアなどはCRSに参加しないので、それらの国々の金融機関については情報共有の対象外。資産を移せばバレないし、それらの国の居住者になってしまえば、CRSに情報を共有されることを回避できる」
かつて口座開設する日本人が列をなした香港上海銀行(HSBC)。現在、口座開設は厳しくなっている。 写真/Bernard Kong
日本では5年ほど前に資産フライトがブームとなり、まとまった資産を持つ高齢者から、普通のOLなど中間層まで香港やシンガポールなどに“口座開設詣で”に出かけた。そんな、にわか資産フライヤーたちは、CRSにどう対処すべきなのか。
「残高が数千万円以下で、しかも額が増えていない口座に関しては、追及しても税金が取れないため、おそらく関心は持たれないのでは」(橘氏)
しかし、前出の高鳥氏によれば、およそコスパに見合わないような税務調査が入った例もあるという。
「近年、オーストラリアに金融資産を持つ日本人のもとに税務署から『お尋ね』が来たり税務調査が入ったりする例が増えています。これは、数千万円程度の資産に対しても同様です」
別の税理士によると、オーストラリア人富裕層の間で、スキーのできるニセコに別荘を持つのが流行したことで、同国の税務当局が日本の国税に彼らの資産についての情報提供を求め、その見返りとして同国内の日本人の金融資産情報を国税に提供したためだという。