日銀・黒田総裁の微表情からウソを見抜けるか? AI表情認識技術の可能性を探る

AIが検出したデータをどう扱うかが、人間の仕事

 次に取り上げる研究は、表情だけに頼るのではなく、表情を含めたマルチ非言語チャンネルを用いてウソを推定するヴァーチャアルエージェントの研究です。  AVATAR(アバター)と名付けられたリアルタイムで発言の真偽を査定するヴァーチャアルエージェントがあります。AVATARは悪意を持つ「旅行者」を検出するために開発されたヴァーチャアルエージェントで、高性能マイク・高解像カメラ・アイトラッキングカメラが取り付けられています。  AVATARは、AVATARの前に立っている旅行者にいくつかの質問をしながら、旅行者の表情、声の質、目線の動き、瞳孔の変化などを計測します。そして異常な受け答えをする旅行者にフラグを立てます。  AVATARは、旅行者の単なる異常行動にフラグを立てるわけではなく、旅行者個々人のベースとなる行動から乖離した異常行動にフラグを立てます。つまり、飛行機に乗るのが怖い、入国審査を受けるのが緊張する、こうした感情の変化を異常としては検出しないのです。  現在いくつかの空港などで実証実験が行われており、実用化が目指されています。  重要なことは、黒田総裁の研究にしてもAVATARにしても、現時点においてAIが単体でウソを直接見抜くことは難しいということです。  人間の目や感覚では認識することの難しい感情変化の蓄積や微妙な身体変化をAIは検出してくれます。そうしたデータをどう扱うかは人間の仕事です。  黒田総裁の例ならば、「政策変更を行わない」と発言した際に生じた(この例は、仮定の話です)「怒り」と「嫌悪」表情の原因が、政策決定と本当に関係あるのかないのか、たとえフラグが立ったとしても、ウソと断定する前にその他の情報源から精査する必要があるでしょう。  AVATARの位置づけは、開発者のAaron Elkinsによれば、第一次スクリーニングです。旅行者の非言語に異常フラグが立ったら、第二次スクリーニングに移り、人間の審査官が旅行者の発言の真偽を精査します。  ウソ検知は、認知的に負担のかかる行為です。回答者の非言語の変化だけでなく言語の一貫性などを注意深く観察し、フラグが立つポイントを発見し、深堀質問を重ね、回答者の発言について情報を収集していきます。AIがフラグポイント=深堀質問ポイントを発見してくれれば、人間の行う負担は減り、調査の効率化が進むでしょう。  AIができること・できないことを正しく理解することで、いたずらにAIに対する懸念や万能感を高める必要はなく、むしろ人間の可能性や人間存在を考えるきっかけを得ることができるでしょう。 参考文献 水門善之(野村證券株式会社), 勇大地(マイクロソフトコーポレーション), 日銀総裁会見の表情解析に基づく感情値の計測と金融政策変更との関係, 第19回人工知能学会金融情報学研究会(SIG-FIN), 2017. A. C. Elkins, Y. Sun, S. Zafeiriou, M. Pantic, “The face of an imposter: Computer Vision for Deception Detection”, Proceedings of Forty-Sixth Annual Hawaii International Conference on System Sciences (HICSS), 2013 J. F. Nunamaker Jr., D. C. Derrick, A. C. Elkins, J. K. Burgoon, and M. W. Patton, “Embodied conversational agent-based kiosk for automated interviewing.” Journal of Management Information Systems, vol. 28, no. 1, pp. 17-48, Summer2011 2011. Schuetzler, Ryan M. and Wilson, David W., “Real-time Embodied Agent Adaptation” (2013). Information Systems and Quantitative Analysis Faculty Proceedings & Presentations. Paper 26. http://digitalcommons.unomaha.edu/isqafacproc/26 【清水建二】 株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。
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