交換されたバッテリーの疑惑について報じる「LA CAPITAL」紙
アルゼンチン海軍の潜水艦「サンフアン(ARA San Juan)」からの交信が途絶えた11月15日から捜査が続けられているが、今も消息不明のままである。
22日に、包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)からサンフアンが通過したと思える航路で、同艦が最後に交信して来た3時間後に爆発音が傍受されたという報告が公にされてからは、サンフアンは爆破したのだという憶測が現実味を帯びるようになっている。
そして、この憶測から報道メディアは原因の解明についてさらなる追跡調査を行っている。現在、有力説として注目されるようになっているのは、“修理の段階で新品のバッテリーに取り換えられたとされていた960個のバッテリーが、実際には中古品の再生バッテリーだった”ということである。それが、何らかの問題を誘発して潜水艦の爆破を招いたというのである。
バッテリーが新品ではなく、中古品の再生バッテリーが用いられた理由はコスト面からである。新品のバッテリーは1個あたりユーロ換算で1万ユーロ(120万円)で、960個を取り換えるには960万ユーロ(11億5200万円)の費用がかかる。この費用は潜水艦を購入する費用のほぼ30%に相当する金額になる。(参照:「
LA CAPITAL」)
非常にコストの掛かるバッテリー交換だが、製造元のティッセン・クルップ社は潜水艦のテクノロジー、安全性、効率性などを考慮して、5年ごとに新しいバッテリーと交換することを薦めていた。(参照:「
OPI SANTA CRUZ」)
しかし、1985年にこの潜水艦の建造が完成して、翌年アルゼンチン海軍に納入されてからは、アルゼンチン政府も海軍も製造元のアドバイスは一切無視する姿勢になっていたのだ。それもあって、修理も製造元ではなく、アルゼンチン国内の造船所で行っている。
しかも、その造船所を傘下にもつタンダノールという企業は、最初は軍事産業に関係した企業であった。その後、8年間は民間企業に転換して倒産。そこで再度、国営事業として2007年に再生させることに決定したという「曰く付き」物件である。この造船所でサンフアンが修理されたのである。その為に、解雇されていたエンジニアも駆り出されたという。(参照:「
Perfil」)
このような変則的な道を辿って来た企業の造船所で6年の歳月をかけて修理されたのである。サンフアンの不祥事にこの造船所での修理工程に不審が集まるのは当然であろう。と同時に、この修理工程が費用水増しの賄賂を行うために利用されていたのであった。