アルゼンチン国内で修理を行えば経費の節約になる。その一方で、修理の工程においては、コストを膨らませて賄賂金をその中に含むことは関係者の間では忘れなかったのである。これが汚職が蔓延していたクリスチーナ・フェルナンデス・キルチネル大統領(2007-2015)の政権下で慣例化していたという。それは企業タンダノールを復活させた彼女の夫ネストル・キルチネル大統領(2003-2007)の時から始まっていたことであった。
汚職で腐敗に染まっていた当時のアルゼンチンで、潜水艦サンフアンが修理される前の2004-2008年間、海軍が契約する企業にはいつも不正があるとして海軍上層部を訴えた下士官ホセ・オスカル・ゴメスは、それが理由で海軍から反抗罪で更迭されたそうだ。彼の説明によると、造船所が契約した会社の社員が職務に就くのではなく、会社は飽くまで架空の会社で、実際に働いていたのは海軍の隊員であったというのである。一方、契約した架空の会社は造船所で行った仕事に対して支払いを請求するのである。(参照:「
La Nacion」)
また、いつも海軍と契約していた職人のひとりは、サンフアンの960個のバッテリーの再生の見積もりとして提出したところ、その金額の4倍の見積もりを提出した彼が知らない企業がその仕事を受注したいう証言も報じられている。(参照:「
La Capital」)
無論、再生バッテリーでも役に立てば問題はない。事実、バッテリーを再生させた業者は6年間は100%新品と同様の性能を保つことを保障したという。しかし、再生バッテリーが潜水艦に設置されてからの保管不備によっては、機能が劣化したり、何らかの要因で海水がバッテリーに触れると水素ガスを発散させるようになる。そして、機能の劣化から端末の不備で電気ショートを起こすようになる。バッテリーが設置されているタンクに溜まった水素ガスに電気ショートによる火花が引火すると爆発を誘発するという危険性がある。
CTBTOが傍受した爆発音というのはサンフアンが辿った航路に沿ったもので、しかも、最後の交信した後に傍受されたものである。それは艦内で水素ガスによる爆発の際に発する爆発音に相当するような特徴をもっているというのである。
もちろん、アルゼンチン海軍もサンフアンの残骸などが確認されるまで、サンフアンが爆破したということは認めていないが、旧式のバッテリーを使用する潜水艦は、この様な危険性を少なからずはらんでいるという。
ちなみに、11月24日付スペイン電子紙『
El Confidencial』は、日本の潜水艦「そうりゅう」について、リチウムイオン電池を搭載して水素ガス発生の危険性から回避していると指摘している。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。