消息を断ったアルゼンチン潜水艦は、なぜこのような事態に陥ったのか?

白石和幸

photo by Juan Kulichevsky via flickr(CC BY-SA 2.0)

 11月15日に消息を絶ったアルゼンチン海軍の潜水艦サンフアンの捜査が続いているが、艦内の酸素は7-10日程度しか持たないとされており、重大な局面に直面している。

 最後にコンタクトがあったのは15日午前7時30分で、最初は停電の故障を伝えて来たという。しかし、すぐその後に、ペドロ・マルティン・フェルナンデス艦長から問題は解決したと本部に伝えて来たという。この連絡を最後に同艦からの交信が途絶えたということなのである。(参照:「Clarin」)

 その後、22日午後に、海軍はウイーンにある包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)から、在オーストリア・アルゼンチン大使ラフェル・グロシを通して15日にサンフアンから連絡があった後、数時間後に何かが爆発したと思える音を傍受していたということがアルゼンチン海軍本部に伝えられている。

 サンフアンが爆破したという可能性が濃厚になっているとはいっても、まだそれが絶対的な結論とはなっていない。サンフアンがまだ見つかっていない現状では、如何なる判断もできないのだ。しかし、8日が経過するまで、海軍はサンフアンが爆破した可能性があるという報告をしなかったことに対し、その遅い対応に乗組員家族などから不満が募っている。

 さらに、乗組員家族に不満を募らせる要素が大きく分けて2つある。そしてそれは、サンフアンがなぜこのような事態に陥ったのかにも繋がることである。

「サンフアン」が抱えていた問題

 そもそも、サンフアンは1985年にドイツのティッセン・クルップ社が建造したディーゼル型の潜水艦だ。すなわち、既に32年が経過している潜水艦なのである。しかも、2008年12月から2014年6月まで性能を改善するということで、アルゼンチンの造船所で修理されていたのである。

 なぜ製造元のティッセン・クルップ社で修理を行うのではなく、アルゼンチンの造船所で修理することを決めたのか。それは、アルゼンチンの造船技術を高めるためという理由と、新しく同種の潜水艦5億ペソ(32億円)を購入するよりも遥かに安価な7000万ペソ(4億4800万円)で収まるという理由によるものだった。

 このような決定をしたのは当時のアルゼンチン政府だ。ネストル・キルチネル(2003-2007)とクリスチーナ・フェルナンデス・キルチネル(2007-2015)の夫婦大統領による政権下だった。汚職に満ちた政権下の決定であった。特に、後者の政権下のアルゼンチンは多額の負債、経済成長は低迷、高いインフレ率、外貨不足などが生じていた時であった。

 結局、サンフアンの修理費用は1億ペソ(6億4000万円)となったと当時のロッシ国防相が指摘している。即ち、当初の見積もり額から3000万ペソ(1億9200万円)の増加しているのだ。ただ、この増加分が政府の会計に計上されていないという。修理費のアップは材料コストの値上げしか想定出来ないと指摘しているのはジャーナリストのルベン・サガーニョだ。

 サガーニョは、汚職が横行したキルチネル夫婦政権下において、この潜水艦の修理改善の作業にも材料費を値上げしてビジネス(汚職)が行われていたのではないかと疑問視しているのである。汚職があれば、修理上において何らかの手抜き作業も考えられるとも指摘している。もしそれが事実であるとしたら、この汚職ビジネスの為に潜水艦の乗組員が犠牲になったことになる。

次のページ 
困難を極めた大修理

1
2
3
4
5
関連記事
6
7