AI表情認識は、売り上げに最も効果的な商品陳列さえも導き出す

もし、AIが感情の解釈までしてくれるようになったら……?

(3)解釈  最後に、消費者の感情や認知過程の解釈をします。つまり、なぜ消費者はそのときその感情を抱くのか? を考える段階です。感情の原因を探る、いわゆる、心を読む、という段階と言えます。  商品の売れ行きと全ての表情データを集計します。A商品よりもB商品が売れたとしましょう。またB商品を見ているときの消費者の顔の動きは熟考表情が大半で、A商品を見ているときの消費者の顔の動きは驚き表情が大半だったとします。  したがって、商品購買と熟考表情とには関連がある、もっと言ってしまえば、驚きを引き起こす商品よりも熟考を引き起こす商品の方が売れる、という推論を下すことになります。  例えば、「商品を見ている間に熟考を浮かべるということは、商品を使っているイメージが消費者の脳裏に浮かんでいる可能性が考えられる。そのため、消費者にイメージを想起させるような『考えさせる』商品説明やパッケージを工夫することで、特定商品の売り上げが増加するであろう」そんな解釈をします(これは架空の調査なので、実際にそうした関係があるのかどうかはわかりません)。  この解釈の段階ですが、AIはまだ出来ません。現時点で表情認識AIを用いた研究・調査では、(1)顔の動きの記述及び(2)顔の動きの意味付けをAIに任せ、その検出結果に表示された数値を人間の研究者やマーケティングに携わる人が観て、解釈しています。  解釈には感情のメカニズムに関する知見や調査分野の知見、そしてときに経験則が必要になります。今後、表情認識AIに専門家らの専門知・実務家らの経験値に搭載させることで(3)の解釈までAIがしてくれるようになり、AIが私たちのビジネスや生活をより良くする提案までしてくれるようになると思われます。 (例) 店長:さて、今月のAIはどんな提案をしてくれるかな?  AI搭載システムを起動させる店長 AI:化粧品セクションのA商品とD商品との位置を変えて下さい。その結果のA商品売り上げ増加率予想は30%に向上します。 店長:なぜだろう?  解説ボタンを押す店長 AI:A商品→D商品という順でお客さんは商品を見ますが、A商品を見ているときの方がお客さんの嫌悪感が低下しています。A商品もD商品もシミやソバカスなど自分の見せたくない部分を消すことから満足が得られる商品です。D商品→A商品と置いた方が、お客さんの嫌悪感が徐々に低下し、A商品に対する魅力度が増すことが予想されます。したがって、売り上げを増加させるにはD商品とA商品の場所を変えるべきです。  近い将来、こうした提案をしてくれるAIが登場することが十分期待できます。 【清水建二】 株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会