プロも驚愕する動画ストリーミング企業のコンテンツ。松江哲明が注目したドキュメンタリー作品とは?

 ドキュメンタリー映画監督として『ライブテープ』『フラッシュバックメモリーズ3D』などの名作を生み出してきた松江哲明氏。そんな松江氏は今、NETFLIX発のドキュメンタリー作品に注目しているという。その理由と、期待するドキュメンタリー作品5選を挙げていただきました。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  僕がドキュメンタリーに興味を持ち、制作を始めた20年前は「フィルムで撮られたものでなければ映画として認めない」という意見もそれなりに通り、ビデオプロジェクターで上映されることにも拒否反応があった時代だ。しかし、そんな時代にデビューしたからこそ僕はビデオの可能性を信じていた。でなければ制作を続けることなんてできなかった。
ネットフリックス01

『Tokyo Idols』

 今も映像制作を続けているが、ドキュメンタリーの状況は大きく変わった。劇場公開作はデジタル化のおかげで大幅に増えてはいるものの、近年はネット配信のクオリティが段違いに上がった。正直、映画館で観る作品だけではベストを選ぶことは難しい。小さい画面からでも強度が伝わる傑作が多いからだ。特にNETFLIXの充実ぶりは他の配信を超えている。  毎月のように数年前ならば劇場公開されて話題になったであろう作品が、大して宣伝もされずに配信されている。僕はレンタルビデオ全盛期にタイトルとジャケットだけの情報で内容を想像して借りていた懐かしい記憶を思い出しつつ、日夜、新たなドキュメンタリーとの出合いを期待している。 『Tokyo Idols』は例えば『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)でも放送されそうな秋葉原の地下アイドルを追った作品だが、ナレーションを排除し、テロップを最小限にしたことで、現象を多面的に捉えることに成功した。  本作は日曜の昼にテレビを観ている視聴者ではなく、海外の「日本では何が起きているのか」という興味を持つ観客に向けて作られている。お金を通じてアイドルと触れ合えることに対しても辛辣な批判を入れている。  もし地上波で放送されたならばネットで炎上しそうな言葉も多いが、作品自体が秋葉原だけでなく、この国の社会を俯瞰するかのように描いているので、実にまっとうな視点に聞こえる。それはシーンの合間に挿入される、スローモーションで撮影された風景の力も大きいだろう。「奇妙な国、日本」を見せつけられる一本だ。
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イタリアのポルノスター引退までの日々
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