プロも驚愕する動画ストリーミング企業のコンテンツ。松江哲明が注目したドキュメンタリー作品とは?

ドキュメンタリーを観る環境は中心は配信に

イーグルス・オブ・デス・メタル』は2015年11月13日にパリで起きたテロを描いた作品。ライブの最中に襲撃され、80名以上の観客が射殺された事件で何が起きていたのかをバンドのメンバーと被害者たちがカメラに告白する。
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『イーグルス・オブ・デス・メタル』

 僕が驚いたのは、事件からこのドキュメンタリーが発表されるまでの早さだ。涙ながらに答える人々と向き合う一方で、制作者はイーグルス・オブ・デス・メタルの歴史を追い、彼らの関係性も見事に描かれている。その友情が復活の大きな経緯となっていることも。  音楽の力だけでなく、ドキュメンタリーの力も感じられる感動作だった。もちろん、それだけでなく現代的なテロの恐ろしさも作品の大きなテーマとなっている。 「全編アニメーションで作られたドキュメンタリー」と聞いても、どんなものなのか思いつかない人も多いだろう。『テキサス・タワー』は1966年に起きた銃乱射事件を生き残った人たちの証言で構成されているが、全編ロトスコープ(実写を元にアニメーションで表現する手法)で描くことで人物の動きは生々しく、サスペンス映画のような緊張感を持続させることに成功した。
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『テキサス・タワー』

 生存者たちは当時の年齢で登場し、カメラ目線で自身の恐怖の体験を語る。アニメーションだからこそ劇映画のようなアングルを描写し、被写体の年齢を50歳も若くすることも可能になったのだ。最新技術を使ったドキュメンタリーの可能性を広げる作品が劇場公開されないのはもったいない気もするが、こうしてネットで簡単に観れてしまうことには感謝したい。  ドキュメンタリーを観る環境が今後も配信が中心になることは間違いないのだから。 <文/松江哲明> 【松江哲明】 ’77年、東京都生まれ。’99年、日本映画学校(現・日本映画大学)卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が、99年山形国際ドキュメンタリー映画祭「アジア千波万波特別賞」「NETPAC特別賞」などを受賞し、話題に。代表作に『カレーライスの女たち』『ライブテープ』『フラッシュバックメモリーズ3D』などがある。山下敦弘とともに共同監督した『山田孝之のカンヌ映画祭』(テレビ東京系)のDVD&Blu-rayが好評発売中
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