写真/Gage Skidmore(CC BY-SA 2.0)
トランプ大統領の訪日での日米首脳会談。北朝鮮問題での日米の緊密な連携が最大のテーマであったが、経済分野で注目されているのが、日米FTAを求めてくるかどうかであった。
先般の日米経済対話でペンス副大統領は日米FTAへの強い関心を示した。トランプ大統領も対日貿易赤字が不公正だとして、その是正に向けて二国間協議に意欲を示したと言う。明確な要求でなくても意図は透けて見える。対する日本は二国間交渉を回避して、米国にTPPへの復帰を促すことが基本戦略だ。安全保障を米国に依存しており、経済で譲歩を迫られかねない日米FTA交渉はできれば避けたいのは当然だろう。
これは正論ではあるし、目的そのものが対日貿易赤字の削減という結果主義に基づくものである限り、およそ受け入れがたい。しかしながら同時に、実はすでに事実上日米FTA交渉は開始されているという現実に気もづくべきだ。
問題はどのようなFTAを目指しているかだ。
米国のイメージするFTAとは決して包括的な協定ではない。そういう時間のかかることには全く関心がない。まず目的は対日貿易赤字の削減だ。そのためには実利にある「個別案件の寄せ集め」でよいのだ。実はそういう個別案件のいくつかは既に日米経済対話で話し合われている。これは事実上、交渉が始まっているのも同然だ。
米国は、特定業界の要望を受けて、個別問題の要求を次々と持ち出している。自動車業界の声を受けて、米国からの自動車輸出の際の検査手続きの問題しかり、製薬業界の声を受けて、医薬品の薬価算定の手続きしかりだ。個別利益で成果を出すことにしか関心がない。
それはトランプ政権の外交不在であるからでもある。本来、戦略を語るべきは国務省だが、その枢要ポストがいまだ任命されていない。前面に出てくるのは単なる個別問題の交渉屋であるUSTR(アメリカ合衆国通商代表部)だ。しかもライトハイザーUSTR代表はかつて80年代に日本に鉄鋼の輸出自主規制を飲ませた「成功体験」を有しており、30年前の発想が随所に見え隠れする。
こういう時は、米側の個別要求に受け身で反応するだけでなく、日本がしっかりと戦略論を引っ張っていかなければいけない。米側に受け手が不在で、根気が必要ではあるが。
カギは対中国を睨んだ戦略だ。具体的には貿易のルールについてモデルを日米共同で作ることだ。
例えば、本年6月から施行された中国のインターネット安全法。制度設計の詳細は未定だが、外国企業に対して、サーバー設置の現地化を要求したり、国境を超える情報の移転を規制したりする恐れもある。今や製造業はIoTの取り組みとして、顧客データ、工場データの収集、活用することがグローバルなビジネスのうえで重要な競争力になっている。コマツの建設機械が代表例だ。そうした取り組みがこの法律の運用次第では制約されかねず、産業界では大きな懸念となっている。
このような動きに対して、日米の産業界は利害を共有する。日米が、共同でルールを作って中国を牽制していく重要性を米国に理解させていくと、その成果も日米FTAの構成要素になり、戦略性を持たせることになる。
こうした日米経済対話での対話の結果は、結果的に日米FTAにつながっていく。「対話」と言うか「交渉」と言うかは厳密には違っても、やっている実態は変わらない。実質的には既に交渉をスタートしていると言える。