タイで星を掴んだ男・下地奨「ハングリー精神と成功は無関係」(2)

タカ大丸

下地奨が世界に出て”わかったこと”とは

 数年前まで銀座のボーイ、今はサッカータイリーグでJ時代の数倍の年棒を稼ぐ下地奨にインタビューする本シリーズ。彼には引き続き、「稼ぐサッカー選手論」について話してもらった。

南米だから上手いわけでも、ハングリーなわけでもない

 下地奨は、南米に渡るまで大きな勘違いを犯していたという。

「ブラジルでもパラグアイでもそうですが、南米の選手はめちゃくちゃサッカーが上手いと思い込んでいたんですよ。ところが、実際に行ってみると大部分の選手は下手なんですよね。僕でもなんとかなると思いましたよ」

 さらに言うと、大部分の日本人は南米についてさらに大きな誤解をしていると言う。

「よく、ブラジルの選手はハングリーだから強いって言うでしょ。あれ絶対に違いますね。先ほど下手なヤツが多いって言いましたけどね、もちろん上手い選手は沢山います。そして上手い選手ほど実は育ちがよかったり、ユースできちんと教育を受けた選手なんですよ」

 これは、筆者の分析とも重なる事実である。早い話が、カカもフォルランも上流階級の出身である。ネイマールも父親がサッカー選手だった。ロナウジーニョは幼いころからプールがある家に住んでいた。ハングリー精神が人を鍛えるというのは大嘘である。それは本当の空腹を知らない人だから言えるセリフだ。

 それこそ、ボクシングはサッカー以上にハングリー精神がどうこうという人が多い。しかし、井岡一翔はハングリーな環境から生まれてきたわけではない。マニー・パッキャオでさえそうだ。貧しい家庭から出てきたかもしれないが、彼が世界王者になれたのは最低限のメシを食わせてくれた伯父がいたからだ。栄養失調で歯が抜ける状態のままボクシングその他のスポーツに打ち込めるはずがない。本当にハングリーな人間は、そもそも人生のスタートラインにさえ立てないのだ。

 英語、というより米語に“Money is a great equalizer (お金とは最良の精神安定剤だ)”という言葉がある。下地に話すと、「全くその通りですよね」と十回ほど頷いていた。

 下地奨の特徴は、あらゆる面で勉強熱心なことである。今回、筆者のインタビューを受けるとなったとき、すでに筆者の手がけた訳書を読んでグルテンフリーを実践し、オンラインの記事は全て目を通していた。グルテンフリーを実践してみると、「親に心配されるくらい」あっと言う間に体重が落ちたという。そんな下地が筆者に一つ愚痴をこぼしたのは、「メッシ本人の言葉を集めた本がないんですよね」だった。

「オレ、一時期メッシのことを研究したことがあったんですけど、誰かが書いた本とYoutubeの映像があるだけでメッシ本人の言葉を集めた名言集とか、自伝とかないんですよね。出してくれたらオレが真っ先に読みたいんですけど、なんで出さないんですかね」

 筆者に言わせれば理由は簡単で、「カネにならないから」である。仮に十万部売れたとしても印税は日本円で一千万円から二千万円、彼の月給にもならない。あと、バルセロナはそういった出版に関して非常に厳しい。イメージを守るためということもあろうが、監督や選手の生の声を出させることはまずない。ペップ・グアルディオラはバルセロナの監督だった時代には定例記者会見以外で一切喋らなかったが、バイエルン・ミュンヘン監督になった途端に本人公認書籍を出させたのがその好例である。

「だから僕としてはズラタン・イブラヒモヴィッチの自伝を読んで研究するくらいしかできないんですけど、モウリーニョは第三GKの靴のサイズを覚えているって凄いですよね」

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カレン・ロバートがアジアリーグで稼いだ生涯年俸はJリーガーをはるかに凌ぐ

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