なぜ「ラィ・トゥー・ミー」視聴グループは、ウソバイアスを持ってしまったのでしょうか?
それはおそらく、次の2点に集約されると思います。視聴したグループは…
①誇張された科学的仮説に過剰に反応してしまった。特に、微表情=ウソの証拠と考えてしまった。
②微表情をそもそも読みとれていなかった。
と考えられます。
①に関して、「ラィ・トゥー・ミー」はあくまでもドラマですので、演出上の都合というものがあります。ドラマでは微表情の発見が直接的にウソの発見につながることが多いのですが、微表情を用いたウソ検知の実際の現場では、微表情の発見は深堀質問の発見であり、ウソの証拠そのものとは考えません。
また現実の世界では、ドラマのように明確に、かつ頻繁に微表情が現れるわけではないため、微表情が発露されるまで忍耐力が必要だったり、微表情以外の戦略を用いて情報収集を行います。こうした時間のかかる取り調べの過程はドラマでは描かれませんので、実験参加者は微表情から簡単にウソを見抜けるものだと誤解したのかも知れません。
②に関して、前回の記事でも書かせて頂いた通り、微表情の検知力は
1時間の集中的かつ専門的なトレーニングで高まることがわかっています。
しかし、「ラィ・トゥー・ミー」を視聴した程度では、到底微表情検知力は身に着かないと考えられます。例えるならば、ジャッキーチェンの映画を観ると、身体を無性に動かしたくなり、何だか強くなった気がしてきます。しかし実際には全くカンフーなど出来るようにはならず、強くもなっていないのと同じです(格闘技や運動を始めるきっかけにはなるかも知れませんが)。
まとめますと、「ラィ・トゥー・ミー」を観ても、ウソを見抜けるようにはならず、ウソバイアスを抱いてしまうようになる、ということになります。
とは言え、「ラィ・トゥー・ミー」は微表情の魅力と効用を最大限に引き出し、微表情の世界を楽しむにはもってこいのドラマです。私も大好きなドラマです。微表情の真剣な学びの世界へのきっかけとして、オススメです。
※Numb3rsとは、数学を利用して犯罪を解決していく数学者とFBI捜査官の活躍を描いたドラマです。
(参考文献)Levine, T. R., Serota, K. B., & Shulman, H. (2010). The impact of Lie to Me on viewers’ actual ability to detect deception. Communication Research, 37, 847-856.
【清水建二】
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。