日本が発見した地下空洞に、日本がかかわり続けるために必要なこと
ひるがえって、現在の日本の月探査は、まず2019年以降に月に着陸することを目指した小型探査機の開発が進んでいるくらいで、他国(や企業)ほどの勢いはない。
実は日本では、かねてより月の縦孔や、その下に広がっている(と考えられていた)地下空洞を探査しようという動きが行われていた。しかし、現在まで具体的な計画にはなっておらず、この調子では地下空洞にたどり着けるのは、早くとも2020年代の後半あたりになろう。そのころにがすでに、どこかの国か企業が降り立っていてもおかしくない。
しかし、月の縦孔も、そして地下空洞も、科学的な面、人類の宇宙進出という面から大きな可能性があること、そして日本が初めて発見したものであることを考えると、日本も探査計画を早期に立ち上げ、進める意義は十分にあろう。
もちろん、日本が率先して地下空洞に基地を建設するなどといったことは、予算などから難しいことは否めない。しかし、たとえばせめて、日本が先んじて地下空洞に無人探査機を送り込み、地形や岩石の組成などを調べておけば、他国や企業が探査に赴こうとした際にデータの提供や探査の支援といった形でかかわることができ、存在感を発揮することができる。また、いずれ有人探査や基地建設が始まることになった場合でも、共同で参加できる可能性が生まれるだろうし、その中である程度強い発言権をもつことも可能になろう。
もちろんJAXAなど国が主体となって進めるのもひとつだろうが、日本でも近年、民間企業による宇宙ビジネスが活発になっており、いくつかの企業がロケットや衛星、月探査機の開発に挑んでいる。彼らの意欲と技術力を活かし、そこに国が適切にサポートすれば、実現の可能性も増し、直接ビジネスにつながるチャンスもある。
「どうせ他国がやるのだから、日本はそれに付いていけばいい」と考える向きもあるだろうが、しかし他国との共同探査や開発計画を行う場合、まず相手と対等な関係を構築できるかが重要であり、そしてそれは、その分野において他に負けないほどの実力と実績があって初めて成立するものだということを忘れてはならない。
この月の地下空洞が、これから先どのように探査され、そして活用されていくのかはまだわからない。しかし、だからといって他国や他社が動き出すのを待っていては、日本は地下空洞における存在感を失い、そして科学でもビジネスでも後塵を拝することになるだろう。
米国の月探査機が撮影した月の縦孔。いつかこの中で人類が活動する日がくるかもしれない Image Credit: NASA/GSFC/Arizona State University
<文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『
イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info(
https://twitter.com/Kosmograd_Info)
【参考】
・月の地下に巨大な空洞を確認 | 宇宙科学研究所(
http://www.isas.jaxa.jp/topics/001156.html)
・マリウスヒルの縦孔 | UZUME Project(
http://kazusa.net/uzume/?page_id=13)
・月周回衛星「かぐや(SELENE)」 – 観測ミッション – LRS(
http://www.kaguya.jaxa.jp/ja/equipment/lrs_j.htm)
・SLIMについて(
http://www.isas.jaxa.jp/home/slim/SLIM/about.html)
・Exciting New Images | Lunar Reconnaissance Orbiter Camera(
http://lroc.sese.asu.edu/posts/286)