科学的にも、月面基地や都市の建設にも重要な地下空洞
この月の地下空洞には、科学的な面からも、そして人類の月面基地や都市の建設といった面からも、多くのさまざまな可能性が秘められている。
たとえば月という天体が、どのようにでき、これまでどのような歴史を歩んできたのかは、まだ謎が多い。これまでも数多く探査が行われているが、そもそも月には大気がなく、月面に隕石や有害な放射線が直接降り注いでいるため、岩石などが破壊されてしまっている。そのため月の表面だけ探査したのではわからないことも多い。
しかし空洞内なら、破壊されていない”新鮮”な岩石があるはずで、それを調査すれば多くの発見があると考えられている。他にも水がガスとして埋蔵されていたり、月の磁場の痕跡が残っていたりなど、さまざまな可能性が潜んでいる。
さらに、月面に建物を建てようとするなら、隕石や放射線の襲来に耐えられるだけの頑丈なものにしなければならない。結果、建設には手間もお金もかかる。
しかし、もしこの地下空洞の中に基地を造れば、天井が守ってくれるため、手軽に、なおかつ安全に建設することができる。また、空洞内は温度が比較的安定しているというメリットもある。また、空洞の壁や底はガラス質で覆われており、密閉性が高いと考えられているため、縦孔の部分を扉などで密閉すれば、そのまま人が住めるようになるとも考えられている。
もちろん、いくつかの困難や欠点はあるものの、
地下空洞は将来、人が住める場所として大きな可能性をもっている。
地下空洞の想像図 Image Credit: JAXA/SELENE/Crescent/Akihiro Ikeshita for Kaguya image
もっとも、月面基地や都市の建設なんて所詮は夢物語、と思われるかもしれない。たしかに現状のままでは、50年後あたりがいいところだろう。
しかし、世界各国では有人の月探査に向けた動きが始まっており、さらに民間企業による、月探査や資源の開拓といった、月開発をビジネス化しよう動きもある。彼らがこの科学的にも、将来の月面基地の建設地としても有望な地下空洞を見逃すはずはない。
世界の中でいま、もっとも月探査に力を入れているのは中国である。2007年に初の月探査機の打ち上げに成功して以来、これまで4機の探査機を送り込み、うち1機は月に着陸し、現在も稼働を続けている。今後も世界初となる月の裏側への着陸や、大型の探査機で月の岩石を回収し、地球に持ち帰るミッションにも挑もうとしている。彼らがその気になれば、2020年代の前半ごろに、地下空洞に達することは不可能ではない。
また、米国も近年、有人探査を含む月探査に興味を示しており、インドやロシアも探査機を送り込む計画を立てている。彼らもまた、計画を少し変えて地下空洞に降り立つことは十分可能である。
機を見るに敏、という点でいえば、民間企業にも分がある。現在米国では、アストロボティックとムーン・エクスプレスという2つの企業を中心に、月探査や資源の開拓を事業化しようという動きがある。また、まだ詳細は不明なものの、Amazon創業者ジェフ・ベゾス氏の宇宙企業ブルー・オリジンや、おなじみイーロン・マスク氏の宇宙企業スペースXも月開発に向けて動き出している。米国以外にも、興味を示している、あるいは探査機の開発を進めている企業はいくつか出てきており、月はすでにビジネスの舞台となっている。
彼らが目標やリソースを地下空洞に振り向ければ、国の機関よりも先にたどり着けるかもしれない。
米国の民間企業ムーン・エクスプレスが開発している月探査機の想像図。月はすでにビジネスの舞台となっている地下空洞の想像図 Image Credit: Moon Express