NY-上海は39分、地球上のどこでも1時間以内に行ける!? イーロン・マスクの「ロケット飛行機」は実現するか

なぜこんな構想をぶち上げたのか?

 マスク氏がこのような荒唐無稽とも思える構想を発表したのには、大きな理由がある。  マスク氏はかねてより、火星に街を造り、いずれは自立した都市を築くことを考えている。もし火星に人類が移住できれば、万が一地球が全面核戦争や伝染病、あるいは小惑星の衝突などに見舞われても、人類という“種”を生きながらえさせることができる。彼が2002年にスペースXを起業したのも、究極的にはこの目的のためだった。  この構想の実現のためには、安全かつ安価に、そして大量の人や物資を火星まで運べる巨大なロケットが必要になる。実はそれこそがBFRであり、つまりBFRはそもそも、火星移民のためのロケットなのである。  ではなぜ、火星行きのロケットを、地球上を飛ぶ旅客機としても使うのか。そこにはマスク氏の苦悩があった。  BFRほどの巨大なロケットを造って飛ばすには莫大な資金が必要になる。開発費だけでも1兆円以上とされ、その後機体を量産したり打ち上げを続けるにはさらに資金が必要になる。いくらマスク氏が大富豪といえども、全額をポケット・マネーから出せるわけではない。  そのため、スペースXの事業として行うことになるが、現在同社は、民間企業や米国航空宇宙局(NASA)や国防総省といった政府機関などからの注文を受け、ロケットで人工衛星を宇宙に打ち上げることで、その対価として運賃を得る「宇宙の宅配便」のようなビジネスを行っている。ビジネスとしては軌道に乗りつつあるようだが、決して大儲けというわけではなく、現状のままではBFRにかかる費用をまかなうことは到底できない。  そこでマスク氏が考えたのが、“BFRを火星移民以外の目的でも使う”ということだった。

BFRはそもそも火星移民を実現させるためのロケットとして開発される Image Credit: SpaceX

「なんでもできるロケット」で火星を目指す

 BFRは、機体すべてを再使用することができ、まるで旅客機のように何度も繰り返し打ち上げることができるように設計されている。そのため、現在スペースXが運用しているロケットはもちろん、既存のあらゆるロケットよりもはるかに安価に、宇宙に衛星を飛ばすことができるようになるとされる。つまりBFRで衛星打ち上げビジネスを行えば、いまよりも利益が上がることになる。  さらに、火星に大量の人や物資を運べるほどの巨大なロケットなら、月へも同じように飛ばすことができる。現在、NASAや民間企業を中心に、月の開発に向けた動きが始まっており、スペースXにとってはBFRを売り込むチャンスになる。もちろんスペースXが率先して月を開発することも可能で、実際に月面都市を築く構想も明らかになっている。  BFRによって、大量の人や物資を地球を回る軌道や月、火星へ、それも安価に打ち上げられるようになれば、宇宙の利用は大きく広がることになり、それに比例してBFRの需要も増える。さらに前述したようなロケット飛行機としても使えば、既存の航空会社に取って代わる輸送手段となり、さらに大きな利益が見込める。  また同時に、BFRの打ち上げ頻度が増えれば、資金面でのメリットだけでなく、その分価格を下げたり、信頼性を上げたりすることも可能になる。  つまり、BFRを衛星打ち上げビジネスや月開発への利用、さらにはロケット飛行機としても活用することで、宇宙開発を発展させると同時にBFRの需要を創出。そして打ち上げを繰り返して、低価格と高信頼性を確立し、安価で安全、確実な火星移民の実現という目標につなげる、という意図があるのである。
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イーロン・マスクが目指す「交通革命」
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