Amazon創業者ジェフ・ベゾスの“巨大ロケット”、一度も飛んでないのになぜ売れる?

ブルー・オリジンが開発中の「ニュー・グレン」ロケットの想像図 Image Credit: Blue Origin

 Amazon.comの創業者にして、ビル・ゲイツ氏に勝るとも劣らない大富豪としても知られるジェフ・ベゾス氏。すでに本サイトでもなんどかお伝えしているように、ベゾス氏は2000年に、自己資金を投じて宇宙企業「ブルー・オリジン」(Blue Origin)を立ち上げ、ロケットや宇宙船の開発を続けている。  そして今、そのブルー・オリジンが開発中の大型ロケット「ニュー・グレン」(New Glenn)が、まだ一度も打ち上げられていないばかりか、実機が影も形もないにもかかわらず打ち上げ契約を次々と取り、宇宙ビジネス界隈の中でめきめきと頭角を現している。  なぜ、信頼も実績もないまったくの新しいロケットが、信頼も実績も十分な他のロケットを押しのけて受注を取ることができたのだろうか。その背景には、ブルー・オリジンとニュー・グレンがもつ、他の企業やロケットにはない多くの特徴がある。

ベゾスの巨大ロケット「ニュー・グレン」

 ニュー・グレンは、ブルー・オリジンが開発中の大型ロケットである。その全長は最大99m、直径は7mと、かつてアポロ計画で人間を月に送った「サターンV」ロケットに近い巨体を持つ。  とはいえ、打ち上げ能力は地球を回る軌道に最大45トンと、サターンVの135トンに比べると3分の1ほどしかない。その理由は、ニュー・グレンは打ち上げ後に機体を着陸・回収し、ふたたび打ち上げるという、まるで飛行機のように再使用することを考えているためである。  ロケットの着陸・再使用というと、イーロン・マスク氏が率いるスペースXの「ファルコン9」ロケットがおなじみだが、ニュー・グレンもほとんど同じやり方で同じことを狙っている。これによりニュー・グレンの打ち上げコストは、従来から大きく少なくなると考えられている(ただし具体的な金額は明らかにされていない)  ただ、ロケットを着陸させるためには、追加の推進剤(燃料)が必要で、その分をロケットに積んだ状態で打ち上げなくてはならない。そのため、図体はサターンVに匹敵するほどの大きさながら、衛星の打ち上げ能力ははるかに小さいという差が生じているのである。  もっとも、打ち上げ能力が小さいとはいえ、それはサターンVというロケット界の異端児と比べた際の話であり、最大45トンという打ち上げ能力は、現在運用されている標準的なロケットと比べれば一回りも二回りも大きい。  大は小を兼ねるとはいうが、ニュー・グレンなら、たとえば今まで打ち上げられなかったような大きな衛星はもちろん、従来は1機のロケットでようやく打ち上げられたような衛星を2機同時に打ち上げることも可能になる。

ニュー・グレンと他のロケットとの比較。単純に大きさだけでいえば、かつてアポロ計画で人を月に送ったサターンV(一番右)に近いが、機体を再使用する関係などで、打ち上げ能力は3分の1ほどしかない。それでも、この左に並んでいるロケットよりははるかに大きい Image Credit: Blue Origin

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