宇宙の藻屑と消えた天文衛星「ひとみ」。事故の顛末と、“代替機”にかかる世界の大きな期待

鳥嶋真也
X線天文衛星「ひとみ」の想像図

X線天文衛星「ひとみ」の想像図 Image Credit: JAXA/池下章裕

 2016年3月、日本が打ち上げたX線天文衛星「ひとみ」がトラブルを起こし、機能を停止する事故が起きた。その後、運用再開に向けた作業が行われたものの果たせず、1か月後の4月に復旧を断念することになった。(参考1参考2参考3

 世界最先端の観測機器を載せ、世界中の科学者から熱い期待をかけられていたこの宇宙に浮かぶ天文台は、本格的な観測を始める前に宇宙の藻屑と消えた。その後、徹底した調査と再発防止に向けた動きがまとめられ、この事件はひとまず、いったんの終わりを迎えた。

 そして今、この手痛い失敗を乗り越え、「ひとみ」の代替機となる新しい衛星の開発が始まろうとしている。

「ひとみ」事故の顛末

「ひとみ」はJAXAの一部門である宇宙科学研究所(ISAS)をはじめ、米国航空宇宙局(NASA)など国内外の研究機関や大学などが共同で開発した、国際的な「宇宙に浮かぶ望遠鏡」である。世界最先端かつ唯一無二の性能をもち、その観測によって大きな発見や成果がもたらされると期待されていた。

「ひとみ」は2016年2月17日に、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられ、予定どおりの軌道に投入。観測を始める前の試験をこなしていた。

 しかし、同年3月26日に「ひとみ」と通信ができなくなるトラブルが発生。さらに地上からの観測で、機体が損傷していることも判明した。JAXAは復旧に向けて懸命の努力を続けたが、それは実らず、4月に復旧を断念することが決まった。

 その後、JAXAは原因を調査し、5月24日に「異常事象調査報告書」を発表した。

 これによると、「ひとみ」はまず、自分の姿勢を知るための装置に問題があり、その結果、実際には衛星は回転していないにもかかわらず、衛星は自身を「回転している」と勘違いした。そして衛星は、回転を止めるために姿勢を変えようとし、逆に回転し始めてしまった。

 これだけならまだ復旧の見込みがあったかもしれないが、悪いことにもうひとつのトラブルが重なってしまった。回転を始めた「ひとみ」は、これを異常と気付き、機体を守るため必要最小限の機器のみ動かすモードに入った。そして回転を止めるために小さなロケットエンジンを噴射しようとしたところ、このエンジンを噴射するためのパラメーターが間違っていたために、さらに回転が加速することになってしまった。

 そしてついには、その回転の勢いで、衛星の中の比較的強度が弱い部品が引きちぎられてしまったのである。

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衝撃の事故調査報告書

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