ベトナム、ホーチミンの下町屋台で「寿司」を食べてみた

 問題は味だが、当然本格的な寿司とはいかない。2016年7月にホーチミン市内に「高島屋」がオープンし、地下は日本のデパ地下のように飲食店が並ぶ。その中に鮮魚関係の店もあり、本格的な寿司が販売されていた。ここまでくれば日本のものと大差ない味わいといったレベルになるが、屋台、しかもベトナム人経営であるスシコはそうはいかない。  とはいっても屋台という形態と値段設定は大きな強みになる。コストパフォーマンスからいうとむしろすしコの握りはおいしいとさえ言えるのではないだろうか。マグロの握りが赤身2.5万ドン(約120円)、トロが2.8万ドン(約135円)。ベトナムでもマグロ漁があるそうで、そのためこういった安さで出せるのだと現地在住の日本人が話していた。

巻物や居酒屋メニューも充実している4区のすしコ

 ただ、ウニは7.8万ドン(約380円)など高いものもあって、値段にはばらつきがある。おもしろいのは、マグロとイカ、それからカンパチが同じ値段でありながら、タコは3.8万ドン(約185円)と高く、日本の物価感覚とは違うところだ。近隣の屋台ではタコの半身をバーベキューにしたものが人気で、7万ドン(約340円)だった。タコは決して高級食材というわけでもなさそうだったのだが、すしコではそうなっていた。

日本人駐在員にも人気を博し、すでに3店舗に拡大

 東南アジアは調理師の技術力が高くない場合もある。たまたまなのか、すしコ訪問時の印象では米が硬い感じがした。それでも雰囲気と値段を考えると、これ以上を望む方が贅沢なのではないかと感じる。かつて江戸においても寿司は屋台で食べる、庶民のファストフードだったという話を聞く。日本では屋台寿司なんてほとんど見かけない。それがこんな東南アジアの片隅で楽しめるというのはおもしろい経験だった。  すしコは4区の同じ通りに2店舗あるそうだ。企業駐在員など日本人在住者が多く暮らす1区の、リトルトーキョーともいえるレタントン通りに2017年7月ごろ、すしコ第3店舗目が登場した。日本人客を狙う場合、この場所に出店するのは定石かとは思う。しかし筆者の個人的見解では、すしコのよさは屋台であって、新店の普通のレストランのような形態になると正直興ざめだと思ってしまうのは大きなお世話だろうか。

日本人の街に進出したすしコの第3店

 ただ、新店に感心するのは、外国人エリアに進出し、エアコン付きの店舗になりながらも下町4区の屋台と同じ値段で出していることだ。在住者やベトナム人にとって4区は治安が悪い地域という認識で、足を運べなかった人もいただろう。この日本人街への進出ですしコは新たな展開を見せるに違いない。 <取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)>
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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