ラホイ首相は住民投票はないと言っている。社会労働党とシウダ・ダンスの両党はスペインの民主政治を守る為にラホイ首相を支持している。しかし、この両党もラホイ首相が仮にカタルーニャ自治州の機能を中断させるという挙に出た場合、それに賛成するか定かではない。
EU議会は、英国のBrexitの例もあり、この成り行きに不安を戴いている。しかし、EU議会議長のイタリア人、アントニオ・タヤーニはスペイン政府与党の国民党と同じグループに属する議員でもあるということからEU内で誰よりも先に声明を発表し、「EU加盟国の憲法に違反する如何なる行為も、それはEU議会に背く行為と見做す」と述べた。そして、「国の一部が独立を宣言すれば、自動的に第三国と見做され、EUから離脱することになる」と指摘した。(参照:「
El Pais」)
カタルーニャが独立すれば同州のGDPは凡そ20%後退すると言われている。そして、ユーロ市場から離脱を余儀なくさせられる。それを懸念して、カタルーニャ州から次第に企業が本社を他の州に移しているというのも実情としてある。
この独立問題は2015年頃から政治的にも表面化するようになっていた。その時に、ラホイ首相がもっと柔軟な姿勢を示して憲法の解釈にも多様性を持って取り組んでいれば、マス前州知事(当時州知事)との交渉においても進展があったはずで、現在のような事態にまで発展していなかったかもしれない。しかし、これまでのラホイ首相の姿勢は殻の中に引き籠ったままで、「住民投票は違憲であるから出来ない」という主張を繰り返すばかりであった。
その結果、今、カタルーニャだけの独立問題だけではなく、スペインの民主政治の尊厳をも問うまでに問題は深刻化しているのである。
<文/白石和幸 photo by
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しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。