現在、再交渉が始まった北米自由貿易協定(NAFTA)についても、トランプは対中国との経済戦争と同様に、メキシコに対し米国の雇用の喪失と貿易赤字の修正を主張している。
NAFTAにおける対メキシコとの貿易赤字は上述した中国との赤字のほぼ6分の1である。トランプは米国の特に自動車産業における雇用の喪失を上げているが、低賃金のメキシコで米国自動車そしてその部品が生産されているお陰で米国製自動車の輸出競争力がついたという事実をトランプは無視している。それどころか、NAFTAの影響でメキシコの農作物は競争力を失い100万人近くが失業者となり、彼らの多くが米国に移民として流入したという事実があることにもトランプは気づいていないようである。
特に、メキシコの主食であるトウモロコシは米国から遺伝子組み換えの安価なトウモロコシがメキシコの農家を壊滅させたという事実があることをトランプは無視している。(参照:「
Resumen Latinoamericano 」)
トランプがNAFTAに火をつけたことによって、ラテンアメリカで二つの共同市場メルコスルと太平洋同盟が結束して米国に頼らないひとつの巨大なラテンアメリカ共同市場の構築を早める動きに繋がっている。それに中国が便乗する構えを見せている。
また、オバマ前大統領が提唱したTPP(環太平洋経済連携協定)もトランプは破棄した。これは加盟国間の貿易促進を図る以外に、ドル通貨の永続性を維持させるための手段でもあった。それもトランプは反故にしたことによって、皮肉にも世界レベルでドル離れに彼自らが貢献する役目を担うようになっている。
中国が米国の覇権の終焉を早めさせようとしている一つが正にドル通貨からの離脱である。既に、イランは資源エネルギーの輸出にはドル以外の通貨を採用している。同様にロシアもドルからの離脱を積極的に展開している。中国との取引においてもドル通貨による取引は半減している。と同時に、中国は自国通貨の世界的流通を積極的に進めている。また、中国はビットコインといった暗号通貨の発展も模索している。この分野の発達は確実で、それは今後ドル離れが間違いなく世界規模で起きるということである。それはまた米国の世界市場における優位性を失うことに繋がることは確実だということである。
この様な事態が近い将来起きるということを無視して、今も貿易赤字の修正と米国での雇用創出という二点にしか関心のないトランプ大統領では米国の崩壊はよりスピードアップされる。
<文/白石和幸>