こうした最悪の事態を防ぐためにも、企業側は明確なルール作りをする必要があるが、ここにも大きな壁が存在する。
「線引きが非常に難しい。被害者意識が極めて強い人もおり、蓋を開けたらパワハラとは言い切れないような、業務的指導だったということも多々あります」
加害者側も無自覚なケースがあり、指導を誤ると「自分は頑張っているだけなのに」という不信感を与え、根本的な解決にならないのだ。そのため武神氏は、専門機関を積極的に利用すべきだと勧める。しかし、大企業ならともかく、中小企業で相談窓口が置かれていることはほとんどない。
「法テラスなど、社外の専門機関に頼るのも手です。パワハラのストレスは、思考回路を狭め、選択肢を見えなくする。何よりも大事なのは一人で悩まないということ」
それでも、一向に埒が明かないと判断したら「速やかに辞めるべき」と言う。
「パワハラがまかり通るような企業に将来はありません。外資系企業では、パワハラを2回以上認定されたら即刻クビという規定を課しているところもあります。パワハラ上司を憎んだところで、その人格を変えることはできません。自分のことを助けられるのは自分だけというのを、忘れないでほしいです」
【武神健之】
医学博士、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。著書に『
職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書―上司のための「みる・きく・はなす」技術 』(きずな出版)など