【雇われない生き方】小さな豆腐屋から見える、地域への付加価値と「定年のない」仕事の幸せ

豆腐屋で好きなことが実現でき、自分の人生を決められる幸せ

東京・池袋の街はずれにある大桃豆腐の大桃伸夫さん

 東京池袋にある、“町の小さな豆腐屋”を自認する「大桃豆腐」さん。店主の大桃伸夫さんは、今はほとんど流通しない国産在来種の大豆を農家さんにお願いして作ってもらい、相場より高値で仕入れている。高知ににがりを作りに行ったり、調達の難しい非遺伝子組み換えの菜種油を揚げ物に使用したりしている。  値段は1丁230円で、相場の3倍以上。安全でかつ、彼のまろやかで絶品の豆腐を地域の人々が愛している。電車を乗り継いて買いに来る人もいる。思いある日本中の豆腐屋さんが、彼のもとに訪ねてくるほどだ。  大桃さんに聞いてみた。 「誰もが豆腐は安全安心と思っているけど、実はそうでもないんです。だからこそ豆腐のイメージを守りたいと思っています。お客さんがいる限り、できるだけ本物を届けたいですね。毎日、ご近所の人たちと顔を合わせて話をするでしょ。地域の安全安心や繋がりに貢献できているのかな~って。  大豆を育てたり、農家さんを訪ねたりといった経験を重ねてきて、豆腐作りがますます奥深くなってきたんです。その都度気づきがあって楽しくて、体が動かなくなるまで続けるだろうと思います。自分の好きなことが豆腐屋という舞台でできるし、自分で人生を決められる自由は何者にも代えがたいですよ」

「再開発事業」という自分の仕事に疑問を持ち、脱サラして豆腐屋に

千葉県香取郡神崎町にある「月のとうふ」の周浦宏幸さん(HPより)

 大桃さんのもとで2年間住み込み修行したのち、千葉県香取で「月のとうふ」を開業した周浦宏幸さん。彼も安全安心を目指し、地元の大豆や地下水にこだわる。こちらも1丁230円だ。隣県からも買いに来るほどの人気で、時には午前中で売り切れるが、拡大化は一切考えていない。むしろ豆腐屋としては異例の週休2日に移行した。  周浦さんはかつて、やり手のビジネスマンだった。街の再開発事業を手がける独立行政法人に勤めていた彼は、「再開発」と言いながらまだ使える商業施設や住宅や店舗を壊し、新しいものを造る業務に疑問を持つようになった。  大手企業を誘致したことで、地元密着の小さな商売が不利になって淘汰されていく現実。疑問に蓋をしながら働いていたところ、ついに体を壊した。その折、食事療法で回復したことをきっかけに、「食や農に貢献する仕事をしたい」と37歳で脱サラを決断。まったく異分野の豆腐屋を目指したのだ。  周浦さんはこう話す。 「町内の他業種さんと商品開発したり、近隣農家さんの野菜を使って販売したり、オカラを鶏の平飼い農家さんに飼料として提供したり、うちの豆乳を天然酵母のパン屋さんが使ってくれていたり。地域に貢献できて、喜ばれることが嬉しいんです。  世の中や地域に対して小さくても何かしらを及ぼせる喜びこそ、充実感ですよね。ストレスなく、頭と体をバランス良くフルに使って自分のペースで仕事できる。それって一番健康的でしょ?  サラリーマンより、みんな自分の本当にしたいナリワイをしたらいいのにね。豆腐屋という小さな商売だからこそ、感謝し感謝されることを日々実感できるんです。90歳まで体ピンピンで元気に豆腐屋を続けられたらいいな~と思っています」
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