これを正式に弁護人契約を結ぶ前に決めておかないと、後で揉める原因になることが多い。たとえば否認事件だと無罪を主張しているわけだが、実際の裁判では有罪の執行猶予判決になってしまったという場合、弁護士の弁護活動は成功か失敗かということが問題になる。
こうした判決が出た場合「実刑は免れたのだから、一応成功でしょ?」などと主張する弁護士も少なくない。
確かに執行猶予がつけば、とりあえず裁判後、身柄は刑務所に送られることもなく自由になるし、執行猶予期間中に犯罪を犯さなければ、罪そのものが消滅する(法的な前科が消える)わけだ。しかし、クライアントからすれば、完全無罪を主張しているわけで、その結果で“成功”とは言えないだろう。
成功報酬の場合「弁護に失敗したら、成功報酬はゼロでOK!」という宣伝文句を謳っている弁護士もいる。しかし、実際の弁護活動が成功だったのか、失敗だったのかは微妙な結果に終わるケースが意外に多いのである。
だから先に紹介した成功報酬の相場はクライアントの希望通りの結果が得られた場合であり、不満がある時には相場金額より何割かが値引きされることもある。
もっとも弁護活動が終わった時、そうした揉め事を避けるために、正式な弁護人契約を結ぶ時にこの事件における“成功”とはどんな結果なのか、予想される“失敗”とはどんなケースなのかをハッキリさせ、ケースごとの成功報酬額を決めておくケースが一般的ではある。
そういうわけで、刑事弁護をしてくれる弁護士を雇う費用は着手金(30万~50万円)+成功報酬(40万~50万円)+諸経費で、70万~100万円。……になるかと思えば、実はそうではない。
確かにそうした計算で弁護活動の全てを行ってくれる弁護士も実在する。しかし、最近は最低限の弁護活動以外の諸手続きをすべて“オプション”と称して、別途請求する弁護士も少なくない。
ちょっと前まで弁護士を雇う料金というのは、弁護士会ごとに“料金表”があって弁護士料金は、ほぼどの弁護士も同じだった。しかし、日本国内で弁護活動をする弁護士というのは、弁護士会に所属することが法律で義務付けられており、その弁護士会が弁護料金を定めているのは「独占禁止法違反ではないか?」という指摘がされた。
そんな経緯から弁護料金は弁護士自身や、法律事務所が独自に定めることが認められ、2004年以降、弁護士料金というのは、自由価格になっている。だから、この記事で紹介している弁護士料金も相場と言われている金額を紹介しているが、この金額より高額な弁護費用を請求する弁護士もいるし、着手金20万円といった“価格破壊”的な弁護士もあったりするのである。
ただし、そうした相場に比べて安い着手金で依頼を受けている弁護士の場合、最低限の弁護活動以外の諸手続きをすべてオプションにしているケースが多い。たとえば逮捕・勾留されている被疑者の身柄を、満期より早く解放する手続きである“勾留理由開示請求”とか、“準抗告”といったことを弁護士にやってもらう場合、それは“別料金”になるのだ。
弁護士の中には「依頼人である被疑者の身柄解放は、弁護士の基本活動のひとつ」と言って、勾留理由開示請求や準抗告の手続き費用は、基本弁護費用(着手金+成功報酬)に含まれると解釈している人もいるのである。これはどちらが正しいという問題ではない。諸手続きひとつでも料金が発生するというのは、弁護士自身も報酬分の仕事をすることを求められるわけで、その方が支払う側も安心感があるという考え方もある。
そんなわけで、私選弁護人は選び方によって、かかる費用に結構差が付いてしまうのだ。そして高額な弁護料金がかかる弁護士が、必ずしも優秀ではないという事も頭に入れておこう。弁護士の良し悪しは、どれだけ依頼人の立場になって熱心に動けるかということと、依頼人との相性である。刑事事件はスピードが勝負なので、色々迷っているヒマはないが、正式に弁護人契約を結ぶ前に、その弁護士の料金体系はしっかりを把握しておくべきだ。
<文/ごとうさとき>
【ごとうさとき】
フリーライター。’12年にある事件に巻き込まれ、逮捕されるが何とか不起訴となって釈放される。釈放後あらためて刑事手続を勉強し、取材・調査も行う。著書『
逮捕されたらこうなります!』、『
痴漢に間違われたらこうなります!』(ともに自由国民社 監修者・弁護士/坂根真也)が発売中