国策捜査か? 職員のスマホさえも問答無用で取り上げた森友学園への家宅捜索

家宅捜索は深夜まで及んだ

 日付は変わり、やがて丑三つ時を迎えた。家宅捜索は終わらない。 「最初、立ち会ってくれた弁護士さんは『そんなに長くかからないから』とおっしゃっていたんですけれども、やがて『12時は回るかも』、しばらくしてから『2時は過ぎそう』と言ってきます。検察の人に『いつ終わるんですか?』と聞いても『もうすぐ』としか言ってくれません」  一番辛かったことを尋ねると、 「廊下のほうから検察の方の笑い声が聞こえてくるんですよ。本当に悲しくて悔しくて、『笑ってる場合とちゃうやろう』と泣きたくなりました」という。  検察関係者の笑い声は幼稚園の外で取材していた僕も何度か聞いている。底抜けに明るい声だった。権力の行使は楽しくて仕方ないらしい。想像を絶する権限を付託されているからこそ、持ち合わせていなくてはならないはずの自覚が完全に欠落している。”検察一家”としての矜持を失い、精神が弛緩しきっている。 「5時を過ぎた時点で、ようやく6時過ぎには終わると言われました。押収品目録交付書に母音を押すよう促されたんですけれども、もうそのころには完全に思考力を失っていて、悔しいという気持ちもありませんでしたね」  終了したのは午前6時半。11時間半にわたる捜索のあいだ、ずっと当局係官の監視のもと、ひとときの休息も許されず、夕食も摂っていない。

参考人にすぎない女性職員を11時間半も拘束

「わたしたちは何度も『ひどすぎる』と抗議をしました。でも検察の方は、『みんな、こうしている』『これは当たり前のことなんだ』と言うばかりです。幼稚園の先生方は7時に出勤してきます。ですから私たちは一睡もせず、翌日の通常業務にあたりました」  当局の言う「あたりまえ」は検察村の屁理屈のなかでの「あたりまえ」に過ぎない。検察村の常識が一般社会の常識と隔絶してるからこそ、大阪地検特捜部による「主任検事証拠改ざん事件」の際、ごうごうたる非難を浴びたのではなかったのか。あれほどまでに大阪特捜不要説が取りざたされたのではなかったのか。朝日新聞の報道によると、徹夜の捜索について、捜査関係者は『通常の捜査だ。普通は園児のいる平日の昼には入らない』と言ったそうだ。被疑者ではなく参考人にすぎない若い女性職員を11時間半にわたって監視付きで拘束、食事の時間どころか、ひとときの休息すら与えないような捜査を『普通の捜査だ』と言ってのけるところを見ると、あの方たちの内面は「主任検事証拠改ざん事件」の前とまったく変わっていないようだ。公権力を行使するうえで、人権上の最低限の配慮すらできない人たちに、社会正義の実現などできるわけがない。

とかげの尻尾切りは許されない

「検察の方たちが園内から立ち去られたのは6時半を回ったくらいでした。7時には幼稚園の先生方が出勤してこられるので、わたしたちは一睡もできないまま翌日の勤務に臨みました」  政治家のからんだ大規模な汚職など、なかなか警察が手を出しにくい案件に取り組むことを国民に期待されているからこそ、特別捜査部は存在を許されている。今回の森友学園の件は、告発があったとはいえ、通常では大阪府警マターであり、特捜部が取り組むべきレベルの犯罪ではない。  森友事件は朝日新聞による国有地の払い下げ報道が端緒となっている。売買価格が8億円から大幅に値下げされた経緯や、財務省による書類破棄、大阪府による不可解な学校設立認可など明らかになっていないことは多い。  報道を見ても、国民の大多数はその点の解明を求めている。  今回の捜査によって事件が籠池氏によるものだけに矮小化され、とかげのしっぽ切りに終わるようなことになれば、大阪地検特捜部は今度こそ国民からレッドカードを突きつけられることになるという覚悟を持って調べを進めてほしい。社会は特捜検察をあなた方が思っているほど温かくは見ていない。 <取材・文 赤澤竜也 twitterID: @tatsu_a
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