幼稚園内部の様子に戻る。
「まず職員室とその横の倉庫の捜索に入りました。倉庫には金庫があるんですよ。『お金を数えるから見ててね』と言われ、1万円札何枚、千円札何枚と確認を取っていきます。職員室では棚に置いてある書類を根こそぎ集め、段ボール箱に入れていきました。『まったく関係ないものですから』と言っても聞いてくれず、にかく書類という書類はすべて持って帰るんです。『幼稚園の業務に必要です』と懇願した書類だけ、コピーを許されます。もちろん自分たちでコピーするんですよ」
捜索する際はすべて幼稚園の関係者の立ち会いのもとで行われる。見えないところで勝手に書類や物品をあさられることはない。
「もちろん、わたしたち自身も常に見張られていて、ひとりになることは許されません。お手洗いの際も入口までついて来ます」
証拠隠滅されぬよう警戒は怠らないのである。
「『外部との連絡を絶つためスマホを預からせて欲しい』と言われたので、手渡しました。その時は後ほど返却するような雰囲気だったんですよ。やがて、スマホの設定状況やメーラーはなにを使っているのかなどを調べはじめます。おかしいなと思っていると、パソコンを押収された際、『スマホとパソコンは全部持って行く』と言われました。その時はじめて騙されたと気づきましたね。わたしたちは被疑者ではなく参考人だと聞いていましたし、今の時代、携帯がなくては普通の生活ができなくなるので抵抗したんですけれども、問答無用でした」
没収されるだけではない。
「『LINEとGMAILの暗証番号を教えてください』と言われたんですよ。『教えたくないんで、教えなくてもいいですか?』と言い返すと『教えなくてもいいけど、解析に時間がかかるから返却が遅くなるよ』」
と暗に開示するよう要求してきたという。
「教職員の机の引き出しもすべてやられます。ショップのポイントカードとか、どう考えても必要ないものも持って行かれますよ。稲田朋美防衛大臣の名刺が出てきたときだけ『どうしよう?』とかなり動揺し、係員同士で顔を見合わせていました」
国策捜査なので政治家の名刺に逡巡したのだろうか? 違うと信じたい。
「幼稚園のバスや従業員の私用の車も捜索されました。広い建物なんですけれども、幼稚園の職員同行のうえ、すべての部屋や倉庫も調べます」
筆者は幼稚園の外で待ち構える取材陣のなかにいたのだが、ときおり2階の教室に懐中電灯の光らしきものが見えたので、その時のものだろう。
「数時間が過ぎたくらいになると、段ボールが増えてきて職員室内に置けなくなったため、講堂にすべての書類を集めることになりました。三台のノートパソコンで押収する資料の目録を作りはじめます」