小学生で“死”を覚悟!プロ棋士を目指す子供に立ちはだかる、高すぎる壁

 前回より、石田直裕四段の例から「子供を藤井聡太にしたい場合の労苦」について言及しているが、今回はまずプロ棋士の登竜門である「奨励会」の実情から見ていこう。  奨励会は六級からだ。日本将棋連盟は、HPで昇級昇段規定を次のように説明している。 「三段から四段への昇段は年2回の三段リーグに参加し、1・2位の成績を取ること。 初段~三段までの昇段点は、8連勝、12勝4敗、14勝5敗、16勝6敗、18勝7敗。 6級~1級までの昇級点は、6連勝、9勝3敗、11勝4敗、13勝5敗、15勝6敗。」  奨励会に集まるのは小学生時代に県大会代表になったような面々ばかりである。  そんな中で6連勝だの、9勝3敗だのが滅多にできるはずがない。これを延々と続け、まずは三段まであがって「三段リーグ」に加わり、26歳までに三段リーグで1位か2位になるしか、プロ入りの道はない。26歳でプロになれなければ、クビである。  つまり、プロ棋士とは大げさに言えば「小学生時代に、26歳で死ぬ可能性があることを受け入れた」男たちの集団なのだ。  一度だけ、筆者は藤井四段の取材で奨励会例会を見学したことがある。立ち入りが許されたのは最初の15分だけだが、一言で言って「もう二度と行きたくない」場所である。  朝八時集合で、九時の対局開始まで倉庫から盤を取り出して並べ、駒を磨くわけだが、その間誰一人と目も合わせず、一言も口をきかない。挨拶すらない。隣のコイツを倒さなければ自分が上にいけないと小学生が敵意をむき出しにしている。お互い、奨励会に友達はいない。  九時に業務連絡と昇級・昇段者の表彰が始まる。その日藤井聡太が二段に昇段したが「藤井聡太初段、規定により二段に昇段です。おめでとう」と幹事が声をかけても拍手はまばらだった。「パチパチパチ」ではなく、「パ…ッチ、パ……ッチ、パ…」だ。この「チ」も本当は小文字にしたいくらいだ。あれほど心のこもらない拍手は見たことも聞いたこともない。  ここで間違えてはならないのは、奨励会で「六級」は最底辺ではないということ。実はまだその下に「七級」がある。  石田直裕四段は、奨励会入会間もなく、2勝8敗を二度繰り返して規定により七級に降級している。母・寿子氏がそのときのことを振り返る。 「七級に落ちた時は今も鮮明に覚えています。主人と新千歳まで迎えに行ったのですが、後部座席から泣き声がずっと聞こえているのですよ。あのときは声をかけられませんでした」
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きわめて難しい、奨励会と高校の両立
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