もうひとつ、「気づかせる」ということについて。
きく技術を持つ人は、自分が話す少ない時間のなかで、相手にアドバイスをあまりしません。
その代わり、相手のためになる効果的な「質問」をします。自分の知りたいことを聞くことを「疑問」と言いますが、相手のためになること(気づかせること)を聞くことを「質問」と言います。
きく技術を持っている人は、疑問ではなく、質問を相手に投げかけます。それによって、相手に自分で気づかせることができるのです。これは言葉を変えれば、相手の視点を変える、変化させるということです。
大人は誰でも、間違いを指摘されたり、ダメ出しはされたくありません。相手の間違いを指摘して、「違うよ、それは」などと言ったところで、相手には通じません。上手な質問は、相手の良くないところ、気づいていないところ、足りないところを指摘するのではなくて、本人の気づきを促すことができるのです。
そういうことができるのが、きく技術を持っている人の「きく」なのです。「きく」ことによって自分で気づかせることができるのです。これが上手なコミュニケーションに繋がります。
組織内でコミュニケーションを上手にしている人。例えばリーダーシップのある上司や、メンタルヘルス不調者を出さない部門の上司は、このように「きく」ことは「認める」ことと「気づかせる」ことだとわかっている人だと私は感じます。
武神健之氏
例えば、部下が深刻な顔をして「ちょっといいですか……」と声をかけてきたとき、話が始まってすぐアドバイスをするのではなく、部下の報告が終わるのを待ってから相手の新たな気づきを促す質問をしているのです。そのようなマインドから始まる織の中では、ハラスメント被害者やメンタルヘルス不調者は出にくいと感じます。
ぜひ読者のみなさまも、職場でこの「きく技術」を始めてみてください。
<TEXT/武神健之>
【武神健之】
たけがみ けんじ◯医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『
職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書―上司のための「みる・きく・はなす」技術 』(きずな出版)、『
不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『
産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある