このマインドの持ち主は、相手を第一印象で決めるけることはしません。例えば、真面目に仕事をしていない相手に対して「サボっているに違いない」などと決めつけるのではなく、「体調が悪いのかもしれない」という、「かもしれない」発想を持てるのです。
この「かもしれない思考」ができること。これは「みる」技術を持っている人が共通してできていることです。逆に良くないのは「サボっているに違いない」「だらしがないに違いない」などと、「~に違いない」断定をしてしまうことです。
「無知の知」とはソクラテスの言葉として有名ですが、ともかく他人のことはわからない。この知らないということを知っている人は「~だろう」という決めつけでなくて、「~かもしれない」という思考回路ができます。
組織内でコミュニケーションを上手にしている人。例えばリーダーシップのある上長やメンタルヘルス不調者を出さない部門の上司とは、このような「かもしれない」という発想ができる人だと私は感じます。
例えばよく遅刻をする部下に対して、「だらしないからだろう」と決めつけるのではなく、「体調が悪いのかもしれない」「プライベートで何か仕事の妨げになるものがあるのかもしれない」と考えているのです。そのような思考から始まるコミュニケーションのある組織の中では、クレームや不平・不満は出にくいと感じます。
冒頭で原因となる行動を取った、消防隊員や運転士が本当にいけなかったのか。それとも、クレームをつけた人は単にそのとき見たことに対し“怒り”が爆発し、コントロールできずにSNSに投稿してしまったのか。
私は当事者ではありませんので、本当のとことはわかりません。ただ、クレーム的なニュースを見たとき、私はちょっと悲しくなりました。しかし、その後、9割の人は許容しているという調査に安心しました。
武神健之氏
「しっかり食べないと仕事ができないかもしれない」
「ずっと運転していて汗もかいているかもしれない」
「熱中症を予防するためかもしれない」
9割の人はきっと、上記のような「かもしれない思考」を持っていたのだと思います。
繰り返しますが、他人については、いくらよく見ていても、見えていないこと=知らないこともたくさんあるのです。ぜひ読者のみなさまも、職場でこの「みる技術」を始めてみてください。
<TEXT/武神健之>
【武神健之】
たけがみ けんじ◯医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『
職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書―上司のための「みる・きく・はなす」技術 』(きずな出版)、『
不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『
産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある