多くの選手が証言するように球場での差別語を使った罵声は昔から続いていたようだが、ジョーンズが今回特に酷くなったというのは、米国内の政治的背景も影響しているのではないかという見方も出ている。差別的発言で物議を醸しながらも当選したドナルド・トランプ大統領の誕生前後から、米国内では差別的な行為やヘイトクライムが増加していると伝えられている。ヤンキースなどで活躍し1993年に野球殿堂入りしたレジー・ジャクソン氏も、今回のジョーンズの騒動に落胆し「我々黒人はいまだにそんな差別の中で生きなければならないとは、残念でならない。今の政治の状況から、こうしたことが社会の流れのようになってしまっている」と嘆いていた。
ジョーンズの騒動は米国の現実を浮き彫りにし、多くの人々を動揺させている。人種差別語に対して規制を強化しようという動きも出ており、ジョーンズの代理人ネズ・バレロ氏は選手を不適切な言葉の暴力から守るため何らかの方策を取るよう大リーグ機構に働きかけていくと話している。MLBで一番の大物代理人として知られるスコット・ボラス氏は「球場には次世代を担う子供たちもいる。立法府や議会が動けば、この違法行為に対して適切な処罰を受けるのだということが周知できる」と、米国議会に球場等での差別語使用に対して法規制を設ける必要性を主張しており、今後は政治も巻き込んだ大きな動きとなっていく可能性もありそうだ。
ところで今回の騒動でボストンがクローズアップされたが、マサチューセッツ州の州都であるこの街は1630年に誕生し、米国の中でも最古の都市の1つに数えられる。多くの一流大学が存在する学術都市でもあり、世界中からあらゆる人種の研究者、学生も集まっているが、白人が多く住む街でもある。2015年の統計では白人が全人口の52.9%(ヒスパニック系白人も含む)、ヒスパニック系を含まない白人が44.6%、黒人が25.3%、アジア人が9.4%、ヒスパニック又はラティーノが19.5%となっている。他の都市と比較してみると、例えばロサンゼルスは2010年の統計だがヒスパニック系を含まない白人が28.7%、黒人が9.6%、ヒスパニック又はラティーノが48.5%、アジア人が11.3%と、ボストンとはかなり差がある。都市部とはいえ白人の多い街でこうした問題が顕在化したのは、やはりトランプ大統領下の社会背景と密接に結びついている気がしてならない。
<取材・文/水次祥子 photo by
Francesco Crippa via flickr(CC BY 2.0)>