フランス大統領選、ごく普通の人々が「極右」を志向する理由

谷口正次

自信を喪失したヨーロッパ人が、新しいアイデンティティを求めている

 しかし、国民国家が姿を消してEUに統合されても、文化や伝統の多様性は今日でもヨーロッパの理解のための基本であることに変わりはないし、国民国家がヨーロッパで終焉したことにはならない。国民国家意識はヨーロッパ意識よりもはるかに強くあり続けるであろう。しかし、いまヨーロッパ人は自信を喪失し、新しいアイデンティティを求めているのではなかろうか。  トランプ米大統領の出現によって「ポピュリズム」という言葉が最近よく使われるようになった。「ポピュリズム」を日本語でいうと「大衆社会の全体主義」だろう。かつてナチスがこれを利用して大成功した。  ユダヤ人の哲学者でジャーナリストのハンナ・アーレントは「悪の凡庸さ」という言葉を発明して世界的に有名になった。これは、虐殺などの恐ろしい行為がごく普通の人々によって生まれることを意味し、ナチスの全体主義を批判するのに用いられた。いまの極右勢力の台頭も、ごく普通の人々がそちらに流れているという現象だ。  大衆社会は、生活の安定性と持続性を破壊する市場原理主義への疑問を呈し、アフリカや中東から押し寄せる難民が生活の安定を脅かすのではないかと不安を訴える。彼らの権利、願望、不満、恐れをすくい上げて、ポピュリズムが伸張するのは当然の成り行きだろう。
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極右と極左に分断する欧州
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経済学が世界を殺す

このまま信じていたら人類は滅亡する

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