ハリボテか? それとも脅威か? 北朝鮮が披露した新型「大陸間弾道ミサイル」の正体

今はまだこけおどしかもしれない、しかし――

ロシアの「トーポリ」。今回、北朝鮮が披露した2つの大型ミサイルのうち、より大きなほうはこれに似た姿をしているのかもしれない Image Credit: Ministry of Defence of the Russian Federation

 発射試験も行っていない未完成のミサイルをパレードに出してきた背景には、自国民向けのアピールであるとともに、米国に対する「米国本土に届くミサイルの開発を諦めるつもりはない」というメッセージでもあることは間違いない。たとえハリボテでも、造るのには数か月を要するだろうから、空母打撃群の派遣というニュースをはじめとする、ここ最近の出来事を受けてでっち上げたものではなく、それより以前から準備していたのだろう。  米国にとってみれば、発射試験や燃焼試験が行われた形跡がない以上、そのメッセージはこけおどしであると受け止めることになる。もっとも北朝鮮側も、自分たちの行動の多くが米国などに察知されていることは承知しているだろうから、彼らがお互いのことを、何をどこまで知っているふりを、あるいは知らないふりをするか、そしてそれぞれが出すメッセージをどう解釈するかで、今後の行動は大きく変わってくる。  ただ、残された時間の猶予はあまりないかもしれない。近年の北朝鮮のミサイル技術は、同国の国力を考えると異常なほどのスピードで進歩を続けている。もちろん発射試験での失敗も多いが、それでも諦めずに何度も改良と発射を繰り返しているということは、彼らの目標がミサイルを完成させることにあるのは間違いない。  今回パレードで披露されたミサイルも、今はまだこけおどしかもしれないが、技術は魔法ではない以上、たとえ北朝鮮でも、いつかは完成させることはできる。北朝鮮のミサイル開発への異常なまでの執着も、それを可能に、それも比較的早くに可能にする一助となろう。また、そのミサイルの完成度が低かったとしても、10発中1発がまともに飛ぶだけでも大きな脅威になることには変わりない。  これは冗談ではなく、ミサイルが日本や米国などの本土へ落とされる前に、北朝鮮問題の落としどころを見つけなければならない。 <文/鳥嶋真也> とりしま・しんや●作家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。 Webサイト: http://kosmograd.info/ Twitter: @Kosmograd_Info 【参考】 ・North Korea’s New Missiles on Parade | Center for Strategic and International Studies(https://www.csis.org/analysis/north-koreas-new-missiles-parade) ・Here are the missiles North Korea just showed off, one by one. – The Washington Post(https://www.washingtonpost.com/news/worldviews/wp/2017/04/15/here-are-the-missiles-north-korea-just-showed-off-one-by-one/?utm_term=.c4e5927b98e5) ・Federation of American Scientists :: RT-2UTTH – Topol-M SS-27(https://fas.org/programs/ssp/nukes/nuclearweapons/russia_nukescurrent/ss27.html
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。 Webサイト: КОСМОГРАД Twitter: @Kosmograd_Info
1
2
3
4
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会