ジャイアンツ・高木京介の復帰がギャンブル依存症脱却のモデルケースになりうる可能性

プロ野球に復帰を認められた巨人軍高木京介選手

 そもそも高木投手の場合、2015年11月、先に野球賭博が発覚した3人の選手の後で関与が発覚し、違法スロット店への出入りも問題視された。しかし無期の失格処分、解雇とされた3人とは関わり方が異なると判断され、1年と期間が定められた失格処分であった。このような処分が初めてのケースであるが故に先ずは復帰させる目論見ありきだとの観測もあった。  出来レースとの批判もあろうが、高木選手自身、基本的には競技中心の生活を送っており、選手として好成績も残していた。また調査の結果、社会規範を大きく逸脱したり「病的習慣」レベルには至らず、辛うじて「あり得る失敗」、「回復可能な状態」と認められたのも大きな理由であろう。  彼自身の人間性も、本来のアスリートとしての自分への肯定感が高く、日々自分を昂らせるゴールやモチベーションはギャンブルではなく野球であったことには疑いがない。つまり、ギャンブルはするものの「依存」には向かわない素地があって、生活も崩れておらず、ボーダーラインより上に踏みとどまっていたと思われる。  一度ギャンブルの楽しさを覚えた者は再び繰り返すという意見も多い。もし繰り返すならば前回よりもさらにのめり込むリスクを警告する論調も見受けられる。共通するのは、処分が甘い、もっと厳しい制裁を受けねば安心できないというような主張である。  しかし筆者はそのような危惧は杞憂で、そちらには向かわないであろうと楽観している。  根拠は、二つのニュースでの発言からである。

3月27日の復帰記者会見から見えること

記者:この1年間、どういう生活をしていたか。また、一番つらかったことは。 高木:この1年は練習や、昨年娘が生まれて子育てをしたり、あとは自分のやってしまった行為に対して、しっかり反省しながら過ごしていました。あとは、つらかったことは、ファンであったり、応援して下さる皆様を裏切ってしまい、ご迷惑をかけたことが、この1年間、一番つらかったです。 記者:球団の調査で発表もあったが、2013、2014年には闇スロットに行っていたという報告があった。公営ギャンブルも断ったとのことだが、違法なギャンブルに対する認識、それに対する反省はどういう気持ちで断っているか。 高木:ギャンブルに対する認識が非常に甘かったという思いをこの1年で痛感しましたし、これからは公営も含むすべてのギャンブルを断つことで、少しでも信頼を回復していけるように努めていきたいと思っています。  まずは、違法なギャンブルをした「間の悪さ」を本当に苦々しく思っていると推測されることである。 「まずい時期に本当にまずいことをした」と、自分に対する相当な嫌悪感を感じたのではないか。私生活キャリアにおいて2014年11月に高校の同級生と3年の交際を経て結婚し、翌年の2015年に子どもを設けるなど自覚と責任が重くのしかかってきた時期でもある。  まさにこの時期に生活を破たんさせ、職を失わせるほどの事件を起こしてしまった。野球に代わるキャリア展望も望めないプロ選手である。依存的にギャンブルにのめりこんでいない心理状態であれば「1年のチャンス」を「最後のチャンス」とまで捉え何が何でも活かそうと努力ができたと思う。またその姿に家族の寄り添いが励みになったことも容易に想像できる。  発言の中の「練習と子育て」はギャンブルに向く余裕がないほどの生活を1年間送ることが出来た証左でもある。つまり1年を通してギャンブルには戻りようがない生活習慣を作り上げてきたのだ。短い発言の間にも「つらかった」という言葉が二度くり返されている。違法ギャンブルに手を染めた記憶が深く嫌悪感として刻まれたものであるならば、再びギャンブルに近づくことがないと充分に期待できる。
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3月28日育成選手背番号「028」での練習合流から
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