ここで治療を受ける人は日々およそ40人前後になる。年間で平均およそ1000人弱。毎日1~3人が治療を終えて家族のもとに戻り、また同じ数がやってくる。
取材時は42人ほどおり、最高齢者はおそらく40代くらい。夫婦で来ている者もいた。夫婦そろってアンフェタミン系の覚せい剤「ヤーバー」から抜け出せず、子どもを想ってふたりでやってくることを決心した。子どもは親に預けて来たのだという。
療養者がみんな苦手とする薬草の時間。先輩とこぶしをつき合わせて互いを鼓舞する連帯感があった
そして、取材時に最も若かったのは13歳の少年だった。中学1年生だ。この少年は学校の教師にここのことを教えられた。麻薬遊びにハマる友人も誘ったが一笑に付される。だから、ひとりで来たのだという。
「小学校のときに友だちに大麻やヤーバーを勧められて始めました」
クスリを買うカネは、自分で買ったクスリを転売して次の資金にした。これはこの少年に限らず、ほとんどの患者がそうしていた。クスリを手に入れるために最初は友人らにカネを借り、返せなくなって人間関係が壊れ、善悪の判断もつかなくなって、最後に密売の片棒を担いでいく。
タイでは覚せい剤の密売は死刑もありうる重罪だ。この施設にいる彼らはみんな、そんな強いクスリへの欲求に最後の抵抗を示したのだ。ある意味ではここにいる患者は幸せだと僧侶が言う。
「妻や夫、家族や友人。諭してくれる大切な人がいて、失ってしまうものの大きさに気づけた人たちです。だからこそ、強く変わりたいと思い、こうしてここにいるのです」
数十種類以上の天然の薬草はタイ伝統医学に基づいたものだという。吐くのも辛いが、吐ききらないともっと辛い時間を過ごす羽目になる
ほかの患者も大なり小なり、様々なドラマを抱えていた。覚せい剤、大麻、コカイン、ヘロイン。いろいろなものに手を出している。共通しているのは「やめたい」という強い意志。運よく、大切な人たちが周囲にいた。30代半ばの背の高いタイ人男性も言った。
「CMプランナーをしていてカネがあった。でも、親父を傷つけた。だからやめようと決めた。もしオレがここから出てまたクスリに手を出したら、家族に対する誓いも、今オレがこうして話していることもすべてが嘘になる。もう手は出さない。もう嘘は吐かないんだ」
大学も出て、夢の仕事も手に入れた。それにも関わらず、すべてを捨てるようなことをして、父親を失望させた。彼は悔い、変わろうとしていた。