脅威増す北朝鮮のロケット技術――「新型ロケット・エンジン」の実力を読み解く

昨年9月に登場した「推力80トン級エンジン」

2016年9月に実験が行われた「新型の推力80トン級エンジン」 Image Credit: KCTV

 2016年9月に実験された「推力80トン級エンジン」は、写真から推測するに、かつてソ連で開発された「RD-250」というエンジン、あるいはそれを基にしたエンジンである可能性が高い。  まずエンジンに推進剤を送り込むための強力なポンプ(ターボ・ポンプ)が、エンジンの中央付近に横向きで取り付けられている。他の多くのエンジンは縦向きに取り付けることが多いため、非常に目立つ特徴となっている。このポンプを横置きにする形式は、1950~60年ごろの、ソ連のロケット科学者ヴァレンティン・グルシュコらが開発したエンジンの特徴でもある。  また、エンジンの燃焼ガスの色はやや透明がかったオレンジ色をしており、推進剤は非対称ジメチルヒドラジンと四酸化二窒素の組み合わせを使用していると考えられる。  以上の点、またエンジンの推定される寸法なども含め、このエンジンは、ソ連製のRD-250と合致する点が多い。  ただ、RD-250と異なる点もある。RD-250は、ターボ・ポンプは1基のみだが、推進剤を燃やして推力を生み出す燃焼器は2基ある。つまり見た目は、エンジンが2基並んでいるような形をしている。  しかしこの北朝鮮のエンジンは、異なる角度から撮影された写真を確認しても、燃焼器は1基のみしか見えない。ちなみにRD-250は、燃焼器が2基の状態で約80トンの推力を生み出す。したがって1基しかない場合、その半分の約40トンの推力しか出せない。  これが完成形なのか、それとも試験のためにわざと減らしているのかは不明である。いずれにしても、北朝鮮のいう「推力80トン級エンジン」というのは、文字どおり”話半分”に聞いておくべきであろう。

ソ連で開発された「RD-250」エンジン(画像はそれを3基束ねたのもの)。北朝鮮の推力80トン級と称するエンジンと合致する特徴が多い Image Credit: NPO Energomash

今回のエンジンと昨年9月のエンジンとの違い

 そして今回、3月18日に試験されたエンジンは、基本的には昨年9月に試験された「燃焼器が1基のRD-250らしきエンジン」に近い。ターボ・ポンプは、取り付け位置が少し異なるものの、形状はほぼ同じで、エンジンの噴射ガスの色、勢いなども同じであるように見える。  ただ大きく異なるのは、エンジンの周囲に、4基の小型のエンジンが追加されている点である。

今年3月18日に実験が行われた「新型の大出力ロケット・エンジン」。昨年9月のエンジンの周囲に4基の小型エンジンが付いているように見える Image Credit: KCTV

 こうした、メインのエンジンに付随する複数の小型エンジンは「ヴァーニア・エンジン」と呼ばれ、メイン・エンジンだけでは足りない推力を補ったり、また多くの場合、このヴァーニアが細かく動いてロケットの姿勢や飛行方向を変える、ステアリングのような役割も担っている。  さらに細かく見ると、ターボ・ポンプを動かしたガスを捨てるための排気管が、昨年9月のエンジンではポンプのすぐ下で途切れていたのに対して、今回のはエンジンの下部まで長く伸び、さらにラッパのような形状になっていることがわかる。他のエンジンの場合、こうした排気管は大気の薄い上空から宇宙空間で動くエンジンに採用されることが多い。  また、ヴァーニアの取り付け位置から見て、燃焼器が2基取り付けられるほどのスペースがあるようには見えない。そのため、このエンジンはこれが完成形であり、昨年9月のエンジンは燃焼器を2基に増やすなどしてロケットの第1段向けに、そしてこのエンジンは、それほどパワーが必要ない第2段向けとして開発しているのかもしれない。
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新型エンジンが「脅威」な理由
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