アジアチャンピオンズリーグで見た中国サッカーの末恐ろしさ。Jリーグに匹敵する日は近い?

大陸的民族意識から見習うべき点あり?

サポーターの元気の良さに、警備員の動員数も並ではない

 火曜日平日開催の試合、疎らだったスタンドも開始が近づくとグッと埋まりほぼ満席だ。  そして試合開始直前、スタンドを真っ赤に染める広州恒大ファンがアカペラで中国国歌“義勇軍進行曲”を斉唱し始めたのである。国際試合に鹿島や浦和のホームで日の丸が振られることはあっても、君が代が自発的に歌われるだろうか。  “俺達が一番、国家代表なんだ”という自負故の行動なのか、将又、広東省こそが国家の中心なんだという民族的アピールなのか、どちらにしても彼等の強力なアイデンティティに触れ、また新鮮さを感じずに居られなかった。

魔法使いを帯同させていた川崎前蜂

 試合は広州恒大が開始早々から完全に支配し、川崎は何もさせてもらえない。26分にはカウンターから7番アランのゴールで先制に成功する。そして広州恒大の攻撃の中心には常に“現役ブラジル代表”パウリーニョが居た。良い流れが生まれる時には必ずと言って良い程に彼を経由する。正に広州恒大の心臓だ。  しかし後半に形勢が大逆転する。ハーフタイムに川崎・鬼木監督は魔法を掛けたに違いない。前半とは全く別のチームに変貌させたのだ。彼等は本来のリズム感を取り戻し、気持ち良くピッチにボールを走らせ攻め立てる。そしてアディッショナルタイムに実を結ぶ。広州恒大20番、ウ・カンチョウがペナルティ内でハンドリングを取られPKを献上。これを川崎の新エース、小林悠がきっちりと決めて同点、そしてドローファイナルとなった。  ゴール裏の一角に陣取り、過量なまでの公安にガードされながらも鼓舞し続けた川崎サポーターが報われた幕切れとなった。

場外からの形振り構わない宣伝広告

 実は試合中、筆者はスタジアムに隣接するファイブスターホテルの側面にある電子広告が気になって仕方がなかった。度々映し出されるイタリア高級ブランドの広告、下着姿のセクシー美女と何度も眼が合ってしまうのだ。  “サッカーと私、どっちなの”と言わんばかりにである。フットボール好きな男性には悩ましい選択、しかし戦略に乗せられ、彼等の貴金属商品を脳裏に焼き付けられた観戦者は筆者だけではなかったと信じたい。計画的戦略、手口に脱帽である。  いやはや、恐るべし中国。  やる事なす事スケールがデカい。チャイナアレルギーが蔓延る日本ではあるが、素直に隣国から学ぶべきものは多くあるはずと再確認した。“金と足球と剛力と女”、国際試合を通じて最後まで世界基準とは何なのか、考えさせられるポジティブな取材機会となった。 【佐々木 裕介】 1977年生まれ、東京都世田谷区出身。旅行事業を営む傍ら、趣味が嵩じてアジアのフットボールシーンを中心に執筆活動を行うフリーランスライター。自らを“フットボール求道人”とも呼ぶ。また「スポーツ×トラベル」の素晴らしさを伝える“スポーツツーリズムアドバイザー”としても活動中。 【アジアサッカー研究所】 東南アジアを中心としたアジア新興国と日本およびアジアの国々のさらなる発展のために、各国の取り組みをリサーチし、関係者に共有し、さらなる価値を創造していくことを目的として、人材開発とコンサルティング分野など、日本とアジアのサッカー交流を加速させるプロジェクトとして活動している。http://ja.ifaf.asia/
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