予想外に躍進しなかったオランダ極右政党。しかしその息遣いは健在

オランダ極右政党の自由党HPより。画面中央はウィルダース党首

 15日、オランダで下院選が行われました。  この下院選で世界から多くの関心を集めたのが、極右政党である自由党(PVV)。  党首であるウィルダース氏は、反EUやイスラム教徒の移民の排斥を主張。ツイッターでの過激な発言など、米トランプ大統領のやり方と似た点が多く、いわばオランダのトランプとして知られる人物。  この自由党がどの程度躍進するのか。結果によっては、ヨーロッパが大混乱になる可能性があっただけに、この下院選は大変注目を浴びていました。  結果、自由党は20議席を獲得。これはルッテ首相率いる与党の自由民主党(VVD)の33議席に次ぎます。要は、極右政党が第2党に躍り出たわけです。  そんな状況下でも、この結果には安堵の声が多く上がっています。理由は、自由党がもっと議席数を獲得するのではと考えられていたから。  自由党の前回の議席数は15議席で、この倍以上を獲得するのではとも考えられていたわけです。終わってみれば、倍には到底及ばない5議席の増加。想像以上に獲得議席数が少なかった。  逆に、自由民主党は思ったより議席数が多かった。当初、150議席の中で5分の1となる30議席を獲得する党が出ないのではとも考えられていたのに、終わってみれば、自由民主党の議席数は総議席数の5分の1を超え、33議席となりました。

トルコとの緊張で右寄り勢力の共感も得た自由民主党

 いったいなぜでしょうか。ここに自由民主党の与党としての経験値の高さを見ることができます。  選挙直前に、オランダとトルコは外交的に緊張関係になりました。トルコ閣僚2人のオランダでの演説集会を禁止したことが発端です。  当初、このような外交的緊張関係は、反イスラムの自由党に有利に働くとの考えもありました。しかし、それ以上にこの外交的緊張をうまく票に結びつけたのが、自由民主党でした。  特にうまかった対応が、トルコのエルドアン大統領から、オランダと「ナチス」を同一視するようなタブーの発言が出た際。この時、ルッテ首相はトルコに対して謝罪を要求。トルコの姿勢が変わらなければ、オランダとしても然るべき対応をする、としました。  さらにいえば、このルッテ首相の対応は、保守を支持する層に対しても強いメッセージを送ることに成功しています。  要は、この対トルコでの強い対応は、程度の差はあれ、自由民主党だって移民問題についてはしっかり認識しているぞ、というメッセージを間接的に発した形になったわけです。  筆者がオランダ人の知人と意見交換した際も、選挙直前は、ロッテ首相が「思ったよりもしっかりとしている」という印象をもったという意見が聞こえてきました。それだけ、堂々とした対応だったといえます。
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EU諸国との連携で、EUという存在を改めて示せたのもうまかった
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