以下に、The GuardianとEl Diarioが報じている内容から一部を抜粋しよう。
政府による避難民が帰宅するように仕向ける策として挙げているのが、毎月の9万円相当の生活補助金を3月末で廃止するというのが政府の意向なのである。現在まで避難民は<当初16万人>で、6年経過した<今も批難生活を続けているのは8万人いる>と報じている。
この対象になっている家族として、マツモト家の例を挙げている。この家族は3月から上述の家族支援金が受けられなくなる。今後も避難生活を続けるには自腹で家賃などを払って行かねばならないという状況に追い込まれることになるという。
彼らは当初避難せず自宅で生活していた。しかし、12歳の娘が鼻血を出すようになり、胃痛と下痢をするようになったことから、250㎞離れた神奈川県にマツモトさんを残して、婦人と子供を避難させたもの。マツモトさんは郡山でレストランの経営を続け、2か月に一度家族が一緒になっているそうだ。
マツモトさんの夫人は<「政府は放射能による被害を過少評価しようとしている」>と述べ、これからも避難生活を続けようとする人たちは自らがその生活費を負担せねばならなくなるとして、<「我々は政府に見捨てられたように感じている」>と言って心情を吐露したと報じられている。
Guardianによれば、放射能専門家は福島原発の爆発時に近く住んでいた住民は<放射能を繰り返し浴びていることから健康上において高い危険度にある>と指摘している。
マツモトさんも<彼らの自宅やその周辺の放射能の数値は政府が指定しているレベルにまで下がっている>と指摘しながらも、<子供たちにとっては、公園や森などはまだ危険である>とされていることを挙げた。更に、<土や路上はまだ放射能のレベルは充分には下がっていない>と指摘した。
政府は年間の被曝量として1mSvを設定している。そして、危険区域だった地区は現在20mSv 以下のレベルにあるとして政府は避難民の帰宅を要請しているのである。
しかし、避難民にとって、この政府の見解が果たして健康に問題はないということを保障するものは何ない。帰宅することを決定するには自分と家族の生命と引き換えの一つの危険な賭けである。
普段、日本のことをそこまで詳しく報じない欧州メディアが取り上げたこの話題。今後、日本以外の国で福島原発問題の重要度が次第に拡大して行くかもしれない。
<文/白石和幸 photo by
IAEA Imagebank via flickr (CC BY-SA 2.0)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。