北極星1号、そして今回発射された北極星2型の最大の特長は、推進剤(燃料と酸化剤)に固体を用いていることにある。
ロケット(ミサイル)の推進剤には、大きく液体と固体の2種類がある。液体推進剤は、たとえば液体水素と液体酸素、ケロシン(ジェット燃料)と液体酸素といったように、推進剤が文字どおり液体の状態のものを指す。固体推進剤も文字どおり、推進剤が固体の状態のものを指す。
液体ロケットと固体ロケットのどちらが優れているかは一概には言えず、目的によって異なる。たとえば液体ロケットは、エンジンを繰り返し点火したり停止したりでき、また推力を調節することもできる。一方の固体ロケットは、推力の調節などはできないものの、液体よりも大きな推力を出すことができ、長期保存ができるなど取り扱いもしやすいという特長がある。
ちなみに、よく固体ロケットの特長として「造るのは簡単」と言われることもある。たしかに液体ロケットは、エンジンの中を配管などが這い回っているため構造が複雑で、誰の目から見ても製造は難しいと感じる一方、固体ロケットは巨大なマカロニ、あるいは竹輪のような形状をしているため、一見すると簡単に造れるようにも感じられる。
しかし、実際には固体ロケットの製造はノウハウの塊であり、決して簡単というわけではない。したがって、液体も固体もそれぞれ違った難しさがあると言うほうが正しい。
このように固体ロケットと液体ロケットには一長一短があるが、ミサイルとして使う場合には、圧倒的に固体のほうが好まれる。
まず固体ロケットは長期保存ができるため、あらかじめ何発も製造して保存し、いざ実戦となればすぐに発射することができる。液体推進剤にも長期保存できるものはあるが、タンクの腐食などを考えると限度がある。ちなみに米国では、50年前に製造された固体ロケットが問題なく動いたという実績がある。もちろんこれは適切な状態で保管・管理されていたからこそできたことで、ただ放っておくだけではそんなに保たない。
また、固体ロケットは点火すればすぐに飛ばせるため、敵から準備を知られにくく、また運用に必要な人員も少なくできるという利点もある。
液体ロケットの場合、タンクの中に推進剤が入った状態ではミサイルを運べないため、空っぽの状態で発射地点まで運び、そこで推進剤を注入して発射する必要がある。そのため、その準備中に敵の偵察衛星などによって動きが察知されれば、先制攻撃を受けたり、迎撃態勢を取る時間を与えることになる。
もちろん、移動式の発射台ではなく、地下のサイロなどから撃つ場合は、液体推進剤のミサイルでも、あらかじめ推進剤を注入し、発射に備えることはできる。ただ、前述のように保存期間の問題があり、またサイロの場所があらかじめ特定されていれば、重点的な監視の対象となり、何かあれば真っ先にそこが攻撃を受けることになる。とくに北朝鮮のように国土が狭く、非力な軍隊しかもたない場合、サイロが先制攻撃される可能性はより高くなる。そのため地下サイロのような固定式の発射台は、同国にとってはあまり価値がない。
すでにスカッドやノドン、そしてムスダンといった液体推進剤のミサイルをもつ北朝鮮が、技術的にまったく別系統である固体推進剤のミサイルの開発にわざわざ手を出し、さらに最も察知されにくい移動式発射台である潜水艦発射型のミサイル開発をも行っているのは、まさににこうした利点を重視してのことだろう。