「プロジェクトの収入源は、登録農家さんからの拠出金と、地元JAや関係自治体で構成される支援組織『西宇和みかん支援隊』からの委託金です。そこから、通常1日8時間の作業でワーカー1人あたり5,000円のクーポンが支払われ、差額からスタッフの人件費等の経費を捻出しています」
北川さんには、当初から「お金を回さないと続かない」という意識があったという。
「農家さんはビジネスとしてみかんを作っています。ですから、たとえお手伝い程度の作業だとしても、働く側には一定の責任感が求められます。報酬が生じることで責任感は生まれますが、現金を渡してしまうと副業禁止規定に引っ掛かる人もいる。そこで有償ボランティアという仕組みを考えました」
お金が絡むということで、農家側から反発はなかったのだろうか。
「このプロジェクトの前にもボランティアを組織化しようという試みがあったようですが、みかん狩り気分の人が多く、上手くいかなかったようです。だから農家さんからは、人手不足が解消できるのであればお金は出したいが、『これで本当に人が来てくれるの?』という不安の声が大きかったです。成功させるためには意識統一が不可欠だという厳しい意見もありました」
プロジェクトリーダーの北川裕子氏
そんな困難を乗り越え、社会貢献の意識とビジネス感覚を上手く融合させてプロジェクトを軌道に乗せた北川さん。その手腕は見事だが、それもそのはず、本業は松山市内でご主人とともに地元密着の結婚相談所『VOCE(ヴォーチェ)』を経営する女性起業家なのだ。
「お手伝いプロジェクトに関わったきっかけは、結婚相談の仕事を進める過程で八幡浜の若い人たちと出会ったことです。本業ではないので、かえって上手くやれている部分はあると思います。でも、それは農家さんやワーカーさんにも言えること。プロジェクトの趣旨をよく理解し、頼む側にも行く側にも余裕があるからこそ続いているのではないでしょうか」
評判を聞きつけて、近隣の自治体や農林水産省からも問い合わせが入るという同プロジェクト。運営は順調に見えるが、北川さんによればまだまだ課題は多いという。もっとも改善したいことは平日の稼働率を上げること。やはりワーカーの就労希望日は土日に集中してしまうので、平日の収穫作業では十分に農家の希望に応えられていない。また、当初期待した若者の参加が思ったより少ないことも今後改善していくべき課題だ。
現在では、収穫作業のほかに、前述の『西宇和みかん支援隊』から委託され新規就農者支援事業も手掛けるようになった。農業が成長産業になると言われて久しいが、現場では依然として人手不足が続いている。このコラムを読んで農業に興味を持った方は、まずはワーカー登録から始めてみかん農家の仕事を体験してみるのもいいかもしれない。
『八幡浜お手伝いプロジェクト』HP
http://www.yawatahama-otetsudai.com/
<文/多田稔>
【多田 稔】
中小企業診断士、経営アナリスト。「多田稔中小企業診断士事務所」代表。経営コンサルティング・サービスに携わる傍ら、「シェアーズカフェ・オンライン」などで企業分析・会計に関する記事を執筆