東大首席、山口真由氏が見た「トランプ大統領」――アメリカ社会の「建前」と「本音」

アメリカで無視される「移民」

 アメリカという二極対立社会は、「白人VS 黒人」の構図を作りたがる。一方で、「移民」という中途半端な存在は、無視され続けてきた。  たとえば、移民として口撃されたヒスパニックの中には、白人もいればそれ以外もいる。トランプの妻のメラニアだって、スロヴェニア出身なのだから、移民に違いない。だが、白人と黒人を二極に分断する社会では、白人もイスラム教徒も、アジア系も……という移民たちが、ひとつのアイデンティティを作ることは難しかった。ヨーロッパからの移民と中東からの移民の間には、仲間意識はない。だから、トランプが移民を攻撃しても、彼らが連帯してトランプに反対することができなかったのだ。

山口氏の新刊『ハーバードで喝采された日本の「強み」』(扶桑社)

 もしトランプが黒人を口汚く罵っていたら……。「白人 VS 黒人」の二極対立社会は、瞬時に戦闘状態になっていただろう。国中の通りで黒人たちがデモをし、場合によっては白人の経営するスーパーマーケットを襲ったり、死人も出ていたかもしれない。  黒人という二極対立の一方の核にはあえて触れないようにしつつ、移民をスケープゴートにすることで、白人優位を強調する。そうやって、建前社会に疲れ切った白人層の支持を得て、トランプは大統領にまで成り上がった。トランプは、まさにアメリカの二極対立社会が作り上げた大統領なのだ。  さて、トランプを大統領に選んでしまったアメリカは、これから一体どこに向かうのだろうか。白人と黒人に分断されてしまうのか、それとも移民を含めて連帯できる社会に生まれ変われるのだろうか。 <文/山口真由> 1983年、札幌市生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験、国家公務員Ⅰ種に合格。全科目「優」の成績で2006年に首席卒業。財務省勤務を経て、弁護士として活動したのち、2015年夏からハーバード大学ロースクールに留学。2016年に卒業し、帰国。ハーバードで学んだことを綴った最新刊『ハーバードで喝采された日本の「強み」』(扶桑社)が発売中。
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ハーバードで喝采された日本の「強み」

東大首席元財務官僚が学んだ、ハーバード白熱教室の実態!

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