この二極対立社会をうまく利用して大統領に当選したのがトランプなのだ。
近年のアメリカは、民主党優位になっていた。民主党にとっては、人種のダイバーシティがとても大事——特に、白人と黒人の平等というのが、一番要のポリシーだ。それ自体は価値あることだが、民主党はちょうどいいところで留めずに、ちょっとやりすぎてしまった。
たとえば、ハーバードで白人の男の子が優秀な成績を取ったとする。すると、他の人たちは「彼は、白人で男で、ひいきされているのだから当たり前だ」と批判する。白人の男の子は悔しいだろうが、反論することはできない。ここで反論してしまったら「人種差別主義者」と言われてしまうからだ。そして、いったん、そういうレッテルを貼られると、進学できなかったり就職できなかったり、アメリカの社会では生きていけなくなる。
最近でも、アメリカのトップモデルであるカーリー・クロスを起用した『ヴォーグ』誌の企画が、アメリカで炎上してしまった。伊勢志摩など日本各地で撮影し、黒のウィッグと和風の衣装を着用したクロスをモデルとして使用したことで、日本人ではなく白人のモデルを選ぶのは「人種差別」とされたのだ。結局、ヴォーグもクロスも謝罪に追い込まれた。当の日本人からすると、むしろポカンとしてしまうだろう。世界のトップモデルを使った有名海外雑誌が、日本をテーマに選ぶなんて嬉しく思うくらいの寛容さが、日本人にはある。
アメリカの「人種差別」は、日本人の感覚が追い付かないくらい行き過ぎてしまった。白人たちはちょっとしたことで地雷を踏んでしまうことに、疲れ切っていた。
そこにうまく切り込んだのが、トランプだった。彼は人種差別表現を絶対にできない「建前」社会のアメリカで、「本音」をバンバン口にした。
「言葉狩り」に疲れ切っていたアメリカの白人たちは、トランプの本音発言に、心の中ではすっきりしていたのだ。
トランプの巧みなところは、黒人を正面から攻撃することは決してせずに、移民を攻撃対象にして、白人優位を、全身全霊でほのめかしたことだ。