「イングランド銀行を潰した」伝説の投資家、ジョージ・ソロス氏の伝記から読み解く「神通力」
米紙「ウォールストリート・ジャーナル」(電子版)は2月12日、著名投資家ジョージ・ソロス氏が、アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ氏勝利後の株式相場急騰を読み損ね、10億ドル(約1140億円)近い損失を出したと報じました。
ソロス』(マイケル・T・カウフマン/著 金子宣子/訳)から紐解いていきたいと思います。
1930年にハンガリーのブタペストのユダヤ人家系に生まれたソロス氏は、ナチス・ドイツの占領下を生き延び、1947年、17歳でイギリスに渡ります。そこでケンティッシュタウン科学技術専門大学に入学しますが、哲学や経済学を志向していた彼にとっては退屈で仕方なく、しかも貧乏だったために学費の確保にも苦しみ、おまけに女性にもまったくモテず、絶望の日々だったと述懐しています。
そんな中、彼は当時イギリスでも指折りの開放的で国際的な学問府であったLSE(ロンドン・オブ・エコノミクス)に憧れを抱き、やがてケンティッシュタウン大学の講義をサボってLSEの講義をこっそり聴講するようになります。当時LSEの講義の中には、イギリス労働党の元中央委員長で名物教授だったハロルド・ラスキ教授のイギリス憲政史を始め、ソロス氏にとって刺激的な授業が多かったようです。
ところが、そんなある日、LSEとケンティッシュタウン大学、両校で講義を持っていた教授に見つかって、LSEの講義を無断で受けていることを通報されてしまいます。そしてケンティッシュタウン大学の学長に呼ばれ、彼は放校されることになるのです。しかし、この危機に対してソロス氏はかえって一念発起します。彼はそれから猛勉強をして1949年、大学入学資格試験をパスし、今度は正式にLSEに入学を許されるのです。
ただし、LSEに入学してからも貧困の問題は解決せず、いつも学費の捻出に苦労する中で彼は、ある日駅のポーターでアルバイト中、荷台に片足がはまり込んで片足を骨折してしまいます。
ただでさえお金に困っていた彼はこのピンチに対して、労災や補償金の仕組みを調べ、公的機関からの労災補償と、ユダヤ人救援委員会という2つの機関から補償金の「二重取り」を企み、これに成功します。さらにはクエーカー教徒のある団体からも支援の申し出があり、これらの補償金・支援金により学費の問題を一気に解決したのです。ピンチをピンチのままとせず、むしろそれを利用してチャンスに変える、彼らしいエピソードと言えます。
ジョージ・ソロス氏は、1992年のポンド危機に際して10億ドル以上の利益を得たことで、「イングランド銀行を潰した男」の異名を取る、伝説的な投資家として知られています。「フォーブス」の世界長者番付によれば、彼は2016年時点で、世界で23番目の資産家だそうです。
トランプ相場は見誤ったものの、依然として世界有数の大富豪であり、そして、世界でもっとも影響のある投資家の一人として君臨するジョージ・ソロス氏。その成功の秘密を彼の伝記『
成功の秘訣① ピンチをチャンスに変える
『ソロス』 金融市場で得た巨万の富を惜しげもなく慈善活動に投ずる「現代の怪物」の真実。 |
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