1万人を面談した現役産業医が考える「違法残業がなくならない」本当の理由

違法残業という企業文化が構築される

 自分の働く時間(残業時間)に無頓着な管理職の例として、夜遅くまでいる管理職もよくあります。上司が終業時間を過ぎても残っているのでは、その部下たちはなかなか気持ちよく帰宅の途につけません。結果として、部下たちの残業も増えます。月末に法の定める残業時間を超えていることが明らかになると「俺たちも残業代ないんだから、超えた分は帳簿につけないよね」というのが暗黙のプレッシャーとなります。  そして、本当の残業時間は記録に残さない、残せない、違法残業という企業文化が構築されるのです。  もし仮に、企業が違法残業をなくしたいのであれば、その前に「名ばかり管理職」 たちが担っていた長時間残業の仕事を誰が担当するかというハードルをクリアしなければならないでしょう。 ところが、これはそんなに簡単ではありません。  そのようなことを言っている間にも、経済のグローバル化、複雑化、労働人口の減少などなど、働く人の労働環境は逆風に面しています。

違法残業は名前を変えて残り続ける

 そのような中で、違法残業を黙認している企業たちは「名ばかり管理職」を設けることでお茶を濁してきたことが、もうこれ以上濁せなくなってきて、違法残業が生じているような気がしてなりません。注意しなければならないのは、この問題はいずれ「ホワイトカラー・エグゼプション」という制度にも形を変えて続くと予想されることです。  いわゆるオフィス労働者(ホワイトカラー)は、工場の労働者(ブルーカラー)とは異なり、仕事をどのように進めるか、仕事をどこで行うかなどについて、一定の裁量性(コントロール)があると言われています。したがって、「どこまでが労働時間か」を把握することは、実は工場労働者ほど簡単ではありません。そのため、一定レベル以上のホワイトカラーについては、労働基準法の労働管理規制から除外するというのが、ホワイトカラー・エグゼプションの考えです。
武神健之氏

武神健之氏

 ホワイトカラーの自主性をより尊重した働き方が推進されるのか、それとも、残業タダ働きという「名ばかり管理職」と同様のネガティブ面が法的に認められるようになってしまうのか、どちらになるかは誰もわかりません。  ただ、現在ある名ばかり管理職や違法残業は、ホワイトカラー・エグゼプションの開始とともにこの新制度の中に入れられることが予想され、企業の社員への健康的な時間管理という概念がますます気薄になるのではないかと心配します。働く人はみなこのことを意識していただきたいと思います。 <TEXT/武神健之> 【武神健之】 たけがみ けんじ◯医学博士、産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。20以上のグローバル企業等で年間1000件、通算1万件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を行い、働く人のココロとカラダの健康管理をサポートしている。著書に『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣 』(産学社)、共著に『産業医・労働安全衛生担当者のためのストレスチェック制度対策まるわかり』(中外医学社)などがある
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