練習後一人、グラウンドで走っていた当時の監督ポポヴィッチ
当時のFC東京監督はランコ・ポポヴィッチ(通称:ポポ、現タイ・ブリーラム監督)で、すでに退任が発表されていた。
つまり、この一か月後にはこの男がこの練習場からいなくなることが確定していた。監督にとって、シーズン途中の退任発表ほど嫌なものはない。チーム内の求心力が一気になくなり、誰もいうことを聞かなくなる。監督が替わるということはチームを替えるということだから、何人かの選手は必ず同時に退団することになる。
そういう選手は大抵、自分の処遇がわかるため再就職のことで頭がいっぱいになる。監督本人も次の仕事を探さなければならないし、何より側近スタッフを食わせていかなければならない。こんなことなら、さっさとシーズン中に解任してもらって契約の残りのお金をもらい、再就職活動に専念したほうがよほどマシなのだ。
だが、ポポはまだ勝負を捨てていなかった。セルビア語だから意味は全くわからないが、紅白戦でまだ渡邉千真を怒鳴りあげていた。
そして全体練習が終わると選手はトボトボと歩いてクラブハウスに戻っていくわけだが、よく見るとひとりだけグラウンドに居残ってランニングしている男がいる。誰かと思うと、監督のポポだった。そしてベンチに座る旧知の代理人を見つけると軽く手をあげ、そのまま走り去っていった。