「生活保護舐めんな」ジャンパーは小田原市だけの問題なのか?

捕捉率すら把握していなかった小野市の担当者

 2013年3月、兵庫県・小野市議会は「小野市福祉給付制度適正化条例」を可決した。  この条例の第1条には「偽りその他不正な手段による給付を未然に防止するとともに、これらの福祉制度に基づき給付された金銭の受給者が、これら の金銭を、遊技、遊興、賭博等に費消してしまい、生活の維持、安定 向上に努める義務に違反する行為を防止する」とある。つまり、「不正受給の防止」と「遊戯や賭博への消費の防止」がこの条例の目的だというのだ。  また、この条例では第5条3項にて、不正受給者や遊戯や賭博で金銭を消費している受給者を発見した場合「速やかに市にその情報を提供するものとする」と、市民による「通報」を呼びかけてさえいる。  筆者は条例可決に先立つ2013年2月、小野市役所の社会福祉担当に電話による取材を実施した。  「市民に通報を呼びかける必要があるほどに、小野市の生活保護の不正受給率は高いのか?」という疑問があったためだ。だが当時の小野市の回答によると、同市の生活保護不正受給件数は、2009年に発覚した1件のみであったという。  同市の生活保護受給世帯数は129世帯(当時)だから、不正受給は率にしてわずか0.7%でしかない。1%にも満たぬのだ。  試みに、「では、生活保護の捕捉率はどれぐらいか?」とも質問したが、小野市の回答は「計算したことはない」との回答だった。捕捉率とは生活保護基準以下の世帯で、実際に生活保護を受給している世帯数の割合のことをいう。つまり小野市は、「生活保護を支給しなければいけない世帯の割合」を計算さえしたことがないのに、「わずか0.7%でしかない不正受給」を防止するために、わざわざ条例を制定し、市民への通報義務まで課しているということになる。 「捕捉率を計算したこともないのに、わずか1%にも満たない不正受給を防止するために市民への通報義務を課すのはあまりにも歪であり、行き過ぎではないのか?」と指摘すると、小野市の担当者は「確かにそうですが、(生活保護を)本当に必要な人に行き渡らせる為にも、不正受給はダメですので」と答えた。  ここが問題なのだ。
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「本当に必要な人に行き渡らせるために」は本当か?
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日本会議の研究

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