この傾向は、スポーツ映像を観ていた子どもたちには見られませんでした。また少女にも見られませんでした。
実験結果をまとめると、暴力映像に悲しみではなく、幸福や満足な表情で観ていた少年は、救助行動はせず、攻撃的な行動をする傾向にある、ということです。
この研究は、暴力映像に対する反応によって暴力映像が悪影響になる場合もある、ということを示しています。
さて、ここまで読まれた子を持つ、もしくは子どもの成長を見守る職務を持つ私たち大人にとって気になることは、なぜ暴力映像にポジティブな感情を示し、真似をしてしまう子がいるのか?ということになると思います。
残念ながら、この研究はこの答えを用意していません。
私が思うに、5~6歳という年齢で暴力映像に対する反応に顕著な違いが表れるというところから、その年齢に達するまでの間に、暴力的な行動をとると自分に良いことがある、もしくは非暴力的な行動をとると自分に良いことがある、そんな学習過程があったのではないかと推測しています。
みなさんは自分や周りのお子さんを観ていてどう思われますか?
参考文献
Ekman, P., Liebert, R. M., Friesen, W. V., Harrison, R., Zlatchin, C., Malmstrom, E. J., & Baron, R. A. (1972). Facial Expressions of Emotion while Watching Televisied Violence as Predictors of Subsequent Aggression. In Comstock, G. A., Rubinstein, E. A., & Murray, J. P. (Eds.), Television and Social Behavior, Vol. V: Television’s Effects: Further Explorations (pp. 22-58). Washington, D.C.: U. S. Government Printing Office.
<文・清水建二>
【清水建二】
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマの監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。