日本のマニアに愛されたタイの「死体博物館」。今は正式に博物館に

かつては「倉庫」のようだった法医学博物館

法医学博物館はきれいに展示品が並べられているが、深い説明は一切ない

 今のシリラート博物館の柱となるのは法医学博物館と解剖学博物館である。当時は「展示室」と呼ばれており、この2つはマニアックな日本人が訪れていた。いわば、展示室から博物館へと「格上げ」になった形だ。  まず法医学の方は、今でも目玉である「シーウィー」が主力展示品であった。シーウィーとは中国から移民でやって来た男の名で、子どもを複数人殺害して食べていたということで死刑になった。その亡骸が蝋漬けにされ、展示されているのだ。  ただ、98年当時の法医学標本室は、マニアックな日本人以外には完全に見捨てられた存在であった。ガラクタの倉庫然としていて、入り口にこそ棚に立てかけられたシーウィーが置かれていたものの、ほかの標本はゴミのように積み上げられていた。刃物で切られた傷を残した腕のホルマリン漬け標本のケースや銃で撃たれて穴の開いた頭蓋骨など、勝手に手に取って見ることができたものだ。  むしろ興味深かったのは標本室よりその真裏にあった司法解剖室(行政解剖かもしれない)だった。事件事故の死体が運び込まれ解剖が行われるのだが、エアコンがないからかドアも窓も全開だった。解剖の様子は入り口に立って見ていても誰にも咎められなかった。さすがにカメラを向けると怒られたが、そのときのセリフは今でも憶えている。 「トップシークレットのエリアだ!ノーフォトだ!」  あれだけおおっぴらにやって極秘もなにもないだろう。当時はそういった緩さがタイにはあった。今では博物館内の撮影すら禁止されている。
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実習用死体が無造作に置かれていた昔
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