食糧難の時代、「ぜいたく品」と言われたイチゴの株を守りつづけた農家がいた

いきなり警察官が来て、みんな抜かれてしまった

『草苺の歴史』と『栃木のいちご半世紀』

川里さんが自費出版した『草苺の歴史』(2015年)と『栃木のいちご半世紀』(2008年)

 川里さんは各地を訪ね歩くなか、戦前、イチゴ栽培の盛んだった神奈川県寒川町の町史のなかの回顧録で、行政指導に従わない農家に以下のような弾圧が行われていたことを知った。それはあるイチゴ農家の証言だった。 「いきなり警察官が来て、イチゴ作りなんて遊びごとは許せんわけで、みんな抜かれてしまった。おまけに留置場入りだ。泣いたね。でも苦心していい苗を隠しといて戦争が終わってからそれを植えたらいい実がみのった。あんなにうれしいことはなかったなあー」  受難の時代にあっても、一部の農家は、竹やぶや畑の隅にイチゴの株を隠して保存しつづけた。こうした農家の勇気ある行動が、戦後のイチゴ作りの礎となった。寒川町では敗戦1年後(1946年)に栽培を再開、翌年には「いちご組合」が再結成された。 「国が危機に直面すると真っ先に影響を受けるのは、イチゴのような嗜好品です。平和な時代の象徴であるイチゴの生産や消費が盛んな社会が続くことを願ってやみません」(川里さん)  旬をむかえ真っ赤なイチゴを店頭で目にする機会が多くなると、川里さんは先人たちの労苦に想いをはせ、「若い人たちにこうした歴史を知ってもらいたい」と思うという。 <取材・文/田中裕司> たなかひろし●ノンフィクションライター。著書に、「不可能」と言われたイチゴの自然栽培に挑む30代農家の姿を描いた『希望のイチゴ~最難関の無農薬・無肥料栽培に挑む~』など
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希望のイチゴ

難題に挑む農家・野中慎吾の、試行錯誤の日々を描く

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