ベラルーシの衛星「Belintersat-1」を打ち上げたときの長征ロケット。衛星が収められた部分に国旗などが描かれている Image Credit: Belintersat
中国は1990年代に、前述した旧長征ロケットを使い、他国の企業や機関などの人工衛星を打ち上げる「商業打ち上げ」に参入した。長征ロケットのコストは、当時も今も安価なことから市場から歓迎を受けた。当時の長征はたびたび打ち上げに失敗したものの、改良によって徐々に信頼性も改善した。
ところが、そんな長征ロケットに危機感をつのらせた米国は、中国への技術の流出阻止も兼ねて、「武器国際取引に関する規則」(ITAR)を強化し、米国製の部品を使った人工衛星を長征で打ち上げることを不可能にした。
そこへ欧州の衛星メーカーが目をつけた。当時、欧州製の衛星はITARによる制約を受けておらず、中国のロケットで打ち上げることが可能だったのである。これによりほんの数機ではあるものの、欧州製の衛星が長征ロケットにより打ち上げられている。だが2013年にITAR規制が見直され、欧州製の衛星の打ち上げも不可能になった。
しかし、このころの中国はすでに、長征ロケットの技術も、そして人工衛星の技術も十分に円熟していた。そして中国は2000年代中ごろから、開発途上国向けに、人工衛星の開発・製造と、長征ロケットによる打ち上げ、衛星の運用技術の伝授、さらに場合によっては宇宙以外の開発案件までもをセットにした「パッケージ輸出」を開始した。
開発途上国の多くは、衛星を造る技術はもたないが、一方で衛星を使った通信や観測は喉から手が出るほど欲している。そこへ、中国が衛星の製造から打ち上げ、運用まで一括で、それも安価に請け負ってくれるとなれば、魅力的に映ったことは想像に難くない。
そして2007年にナイジェリアの衛星を打ち上げたのを皮切りに、2016年10月現在までにボリヴィア、ラオス、ベラルーシなどへの輸出に成功。これにより中国は、宇宙技術を他国へ売り込めると同時に、その国との政治的なつながりもでき、さらに開発途上国のいくつかがもつ貴重な鉱物資源などを手に入れることもできた。
また衛星の打ち上げは1回だけではなく、数年おきに需要が生まれるものであり、さらに最近も、新たにタイ国営の衛星通信会社と契約を結んだことが発表されており、今後もこのパッケージ輸出戦略は続くことになろう。