“宇宙大国”になった中国、その実力は? そして、日本が取るべき戦略は?

半世紀ぶりに刷新された長征ロケット

中国の新型ロケットの一つ「長征六号」 Image Credit: CALT

 中国は現在、「長征」と名付けられたロケットを運用している。長征には主に「長征二号」と「長征三号」、「長征四号」の3種類があり、打ち上げる人工衛星の目的に合わせて使い分けられている。これら長征ロケットは何度も打ち上げ失敗を経験し、とくに1996年には、おそらく宇宙開発史上最悪とされるほどの大事故も起こしている。だが、それでもめげずに数多くの人工衛星、有人宇宙船を打ち上げ続け、中国を最盛期の米ソに勝るとも劣らないほどの宇宙大国へと押し上げた。長征シリーズの全種類を合わせた打ち上げ数は現在までに200機を超え、成功率も信頼性も高い水準を維持している。  これら長征ロケットの運用が開発されたのは1975年と、実に40年以上も昔のことである。以来、改良を重ねながら第一線で運用され続けてきたものの、いかんせん設計が古く、中国の宇宙開発の発展にとって足かせとなりつつあった。そこで2001年から、次世代の長征ロケットの開発が始まった。  次世代長征ロケットは、大型ロケットの「長征五号」、中・大型ロケットの「長征七号」、そして小型ロケットの「長征六号」からなる。2015年10月に長征六号が、2016年6月に長征七号がそれぞれ1号機の打ち上げに成功。現在は長征五号の打ち上げ準備が進んでおり、11月はじめごろに打ち上げられる予定となっている。  このうち、長征七号は補助ロケット(ブースター)の装着基数などを変えることで、さまざまな大きさ、質量の衛星にフレキシブルに対応できる能力をもち、各種人工衛星や有人宇宙船の打ち上げに使う、主力ロケットとして位置づけられている。長征六号はその小型さゆえの小回りの良さを活かし、小型の衛星を迅速に打ち上げる能力を特長とする。長征五号はその強大な打ち上げ能力で、宇宙ステーションの部品や、大型の月・惑星探査機の打ち上げに使用される。

中国の新型ロケットの一つ「長征六号」 Image Credit: CALT

 またこの3機種は、機体の構造やロケット・エンジンなどを共通化しており、量産効果によるコストダウンや信頼性の向上が図られている。  中でも特筆すべきはロケット・エンジンで、これまでにソヴィエト・ロシアでしか実用化されたことのない、きわめて高い性能が出せる技術を採用している。中国は1990年に、ソ連からこの技術を使ったエンジンを輸入し、試験や研究を重ね、1998年ごろから独自のエンジンの開発を開始。初期は失敗の連続で、大きな爆発事故も経験したというが、粘り強く開発を続け、2012年に完成させている。  技術というものは、たとえ手元に実物や設計図があるからといって、すぐに真似して造れるようなものではない。また中国が開発したエンジンは、輸入したソ連製エンジンよりも性能が大きく向上しており、単なるコピーではなく、中国独自の改良も加えられたことがわかる。つまり中国はこの技術をほぼ完全に会得したと見るべきである。  この技術はより大型の強力なエンジンにも適用でき、実際すでに開発が始まっていることが明かされている。中国が今後も、この技術を順調に育てることができれば、人類史上最大のロケットを開発することも不可能ではない。
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人工衛星の「パッケージ輸出戦略」の成功
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